[コラム] 大今歩/普天間基地移転問題で忘れてはならない日中台近現代史
米国が沖縄県内移設にこだわる理由とは
沖縄普天間基地移転問題のつまずきから民主党の鳩山由紀夫内閣が倒れ、菅直人内閣が成立した。マスコミはあれだけひどく鳩山首相の「公約違反」を攻撃したのに、閣僚の一員で辺野古移設の閣議決定に署名した菅直人首相に対してはほとんど沈黙し、7月11日実施された参議院選の争点にならなかった。なし崩し的に辺野古移設が強行されようとしている。
私はこの間、どうしてアメリカ合衆国(以下、米国と略す)が沖縄県内移設にこだわるのか、考えてきた。そして沖縄に近接する台湾問題に最も関係が深い、と思った。
まず、1979年、米国と中華人民共和国は国交を樹立し、台湾の防衛への米国の関与を明示した米華相互防衛条約が失効したが、同年、米国は「台湾関係法」を制定し、台湾に防衛的性格の武器を供給することを明記し、台湾の安全が脅かされた場合は、大統領と議会が協議の上で「適切な措置を決定する」と、武力行使に道を開いている。
また、日米安全保障協議委員会で合意した「共通戦略目標」(2005年)によると、台湾海峡での中台有事などの不安定要因に対処するため、日米同盟を強化する共通の戦略目標で合意する共同声明を発表している。そして、台湾有事での日米協力の検討が水面下で始まっている。
さらに今年2月1日、米国防総省は4年ごとに議会に報告する「国防計画見直し(QDR)」を発表した。QDRは中国に対して「重要地域でわが国益を守り、同地域の安全を保障する能力は、米国にとって不可欠。(中略)米国の圧倒的軍事力なくしては、同盟国や関係国の安全保障上の協力関係に疑念が生じ、紛争の可能性が高まる」と述べている。「重要地域」とは台湾を指すと見られ、台湾における米国の権益や安全を保障することが日米安保条約の役割だ、というのである。
以上のように、米国が沖縄にこだわる最大の理由は、米国がアジアにおいて最重要視する台湾に沖縄が近接しているためである。
このような台湾に対する米国の態度について、日本国はどうあるべきか。
1972年の日中共同声明は、次のように述べる。
「三、中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて声明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項(「カイロ宣言の条項─台湾及び澎湖島ノ如キ日本国ガ清国人ヨリ盗取シタル一切ノ地域ヲ中華民国ニ返還スルコト─は履行せらるべく─後略─」)に基づく立場を堅持する」。
1895年以来、台湾は日本の植民地であった。これを中華民国(中華人民共和国)に返還するというポツダム宣言第八項に基づいて、台湾が中国の一部であることを表明しているのである。
ところが米国は、軍事力を用いて台湾を支援することにより中国をけん制している。そして、それが日米安保条約の今日の最大の存在理由の一つであり、そのために台湾に近接する沖縄の米軍基地存続が不可欠なのである。
だから、沖縄の米軍基地を県外移設あるいは撤去するためには、日本国が台湾政策において、米国に追随するのでなく、台湾を中国の領土の一部に戻すべくあらゆる努力を払う必要がある。
もちろん、中国と台湾には約60年の分断の歴史があり、統合が一筋縄でいかないことは確かである。しかし、両国が経済分野などで協力関係を強化していることに対して、日米が一体となってこれを妨げることは、断じて許されない。それはポツダム宣言や日中共同声明に反するし、台湾を植民地化した責任を放棄することである。
4月25日、沖縄で普天間基地の県内移設に反対する県民集会が開かれ、9万人が集まった。それを伝えた「人民新聞」(4月15日、25日合併号)の記事の中で、高遠菜穂子さんが「米軍基地が今もイラクで多くの人々を殺している出撃拠点になっていることに触れる発言がなかった」ことを嘆いていたことが印象に残った。確かに沖縄は、日本国に差別されて過大な負担を負わされている。しかし、日本国が米国とともにイラクを攻撃する米軍の後方基地としての役割のみならず、対中国基地としてアジアに覇権を強めているという加害責任を追求しなければ、普天間基地問題の真の解決はない。(参考文献=『世界』6月号「日米安保Q&A」/若林正丈『台湾』ちくま新書)