[情報] 『中国低層放談緑[インタビュー]どん底の世界』
──廖亦武著/劉燕子訳/集広舎発行
常に生存の危機に直面する人々
著者は1958年四川省生まれ、89年の天安門で詩「大虐殺」を発表、映画詩「安魂」の制作で反革命扇動罪を適用され、4年間投獄された。獄中で猛烈に自殺願望に襲われ、2回自殺を図ったが死にきれず、同じ獄中の和尚に簫(中国の管楽器)を教わり、生き返った。
訳者の劉燕子氏との対談で、著者は「『低層』とは、ディスクール(言語表現の総体)の権利が奪われ、社会に忘れられ、うち捨てられた存在で、一生にわたり、生存の問題に対処しても常に生存の危機に直面する人たちだ」と言っている。
著作は、「低層」の人たち31人ひとりひとりと著者との対談形式で書かれている。トップは中学生の浮浪児・張大力との対談で、「ゆすり」や「みかじめ料」で生活する張大力を「良心がない」と批判する著者に、「政府だって各部局が税金を集めてらあ、学校もいろんな名目でカネを集めてらあ、なんでおれたちじゃあいけねえんだ?」と言わせている。
乞食や麻薬中毒者などのはみ出し者、同性愛者や「三陪」小姐など性にまつわる人たち、トイレ番や死化粧師や老右派など、変転する世界を生き抜いた人たち、法輪功や地下カトリック教徒など宗教に生きる道を見つける人たち、破産した企業家や天安門事件で「反革命」とされた人たちなど31人との対談は、中国共産党サイドの「光」の反対側の人たちの生活や考えを浮き出させている。
鋭い質問と対話の展開は、一部には著作の部分もあるかも知れない。しかし、「低層」に生きる著者故に「低層」の声を収録できたのだろう。読みがいのある本だ。(評者・森下雅喜)
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現代中国を考えるための3冊 図書推薦…山口協(地域・アソシエーション研究所)
●廖亦武(劉燕子訳)『中国低層訪談録−インタビューどん底の世界』(集広舎、2008年)天安門事件の後、詩人が大道芸で糊口を凌ぎつつ、社会の最底辺層と重ねた対話の記録。
●麻生晴一郎『反日、暴動、バブル−新聞・テレビが報じない中国』(光文社新書、2009年)中国における「民間」の台頭について、現場に分け入った新鮮なレポート。
●劉暁波(劉燕子訳)『天安門事件から「08憲章」へ−中国民主化のための闘いと希望』(藤原書店、2009年)何度も逮捕・投獄されながら、民主化運動を継続してきた一知識人の思想と行動。