[海外] アメリカ/米国食料事情 アメリカの肥満とスクールランチ
──ノースキャロライナ州立大学ローリー校講師・植田恵子
コスト優先の食料政策が招いたもの
アメリカ、特に南部に住んでいると、肥満人口の多さと、油漬け・砂糖漬け食品の多さに驚く。
夏は猛暑のエネルギー補給なのだろう、とろりと甘い、シロップのようなスイートティーは欠かせない。レストランではどこでもお代わり自由で、アメリカ人はジャンボカップでなみなみと飲む。この甘さに慣れると、スイートティーのない夏など考えられない。
地元の人はスイートティーを片手に、代表的な南部料理であるフライドチキンや鯰の唐揚げ、塩漬け豚脂でくたくたっと煮た葉野菜、それにハンバーガーといったファストフードをほおばる。そしてここノースカロライナは、「クリスピークリームドーナツ」(アジア・北米等にも店舗を展開しているドーナツ・チェーン店)発祥の地である。
大人の肥満も深刻だが、2003年頃から特に憂慮されているのが児童、若年層の肥満予備軍増加だ。ノースカロライナ州は子ども(11歳〜17歳)の肥満度は50州中14位で、肥満気味(18%)と肥満(15・2%)を合わせると、33・2%、3人に1人が問題を抱えている。
『ニューイングランド医学ジャーナル』誌によると、2000年生まれの肥満気味の子どもたちが近い将来、糖尿病、心臓病、高血圧等の成人病に罹る率は普通体重児の2倍で、寿命は55歳を切るだろうと予測する。
アメリカでは、年間1470億ドルが肥満関連の疾病治療に費やされている。今回は肥満の原因を引き起こしたアメリカの栄養農業政策と、スクールランチ(学校給食)の、脱ジャンクフードの苦闘をレポートする。
「安価で高カロリー」という食料政策
2007年のアメリカ人の1日当たりのカロリー摂取量は、1985年の摂取量を400カロリー上回り、1970年と比較すると600カロリー上回っているそうだ。
食生活に大きな変化をもたらした食物が2つある。それは@トウモロコシ(甘味)と、A大豆(油)だ。
20世紀のアメリカの農業政策は、「アメリカと地球から栄養不足を無くす」ことを目標に、安価で高カロリーな食糧の増産を目指して、とうもろこしと大豆の生産が奨励された。現在の収穫量は、1920年に比べ600倍になったという。
しかし、単一作物の大量生産の弊害がある。豊作時は農産物の値崩れによって、農業従事者の生活が立ち行かなくなる。また不作時は、消費者が高値の食糧に手が届かず、苦しむ。
そこで過去35年、安定供給のため、政府は農家に助成金と、値崩れ時の農作物補償を約束し、公的資金による単一作物の品種改良研究に着手、大量生産を奨励した。そのため、農民は多作物栽培を捨て、単一作物の大量生産のために、大型コンバイン導入などの設備投資を行なった。
その結果、「安価で高カロリーな食糧を!」という政府の目標は達成された。安い大豆や、トウモロコシを原料とする食用油、ソーダ、スナック菓子、ファストフードといった高カロリー、高脂肪加工食品がアメリカ食品の主流となり、肥満や成人病を増やしてきた。
低所得者層に広がる肥満・成人病
スーパーに山と積まれた青果は、ガンや肥満の予防になるが、政府が定める果物野菜の摂取量を満たしているアメリカ人は10人に1人もいない。長い間、青果生産政策が蔑ろにされてきた結果、1個1ドル(90円)のリンゴより1個1ドルのハンバーガー(脂肪15g、繊維ほぼゼロ)を常食に選ぶ低所得者や若年層が増え、殊に所得の低いマイノリティ(ヒスパニックや黒人)に肥満、成人病が広がり、深刻な問題となっている。
私の学生たちもそうだ。アメリカの大学には「フレッシュマン15」という言葉がある。新1年生は入学すると、15ポンド(7・5キロ)太るという意味だ。親元を離れ、勉強に追われ、ジャンクフードやポテトチップスが主食になってしまうからだ。
スクールランチも例外ではない。安くて簡単に調理できる塩、油、化学調味料漬けの加工品(ハンバーガー、ホットドッグ、ピザ、チキンナゲット、フライドポテト)が主なメニューで、オーブンに入れて焼いたり温めたりすれば出せる物がほとんどだ。そんな加工品が、全米3100万人の子どもたちの口に毎日入っている。