[コラム] 迫共/待機児童問題とは何か?
経済中心・一極集中の見直しを
親が子どもを保育園に入れたくても預ける場所がないという事態が、「待機児童問題」として報道される。子どもを保育園に入れるために、ペーパー離婚をしてシングルマザーを装ったり、育児ノイローゼを騙るなどして、自治体に窮状を訴える人たちもいるそうだ。このような様子を、「就活」にかけて「保活」と呼ぶ、という。
大手メディアの報道では、全国各地が同じ状況のように感じられる。しかし、保育所の受け皿が足りない自治体は、実は全市区町村のうち、2割程度でしかない。
厚生労働省は去る3月25日に、09年10月1日時点の認可保育所の待機児童数を4万6058人と発表した。なぜこんな時点のものを出すのかというと、「待機児童は、4月が底となり、10月には倍ぐらいになる傾向がある」ため(厚労省)。ちなみに、前年同期比で5874人の増加で、10月時点では同じ集計方法をとる01年以降で最多となった。少子化と言われる一方での待機児童とは?と、首をかしげる人もいるだろう。
私が運営する保育園は、大阪市内でも3番目に待機児童が多い地域にあるが、冒頭に書いたような話は聞き覚えがない。むしろ、利用時間から見ると幼稚園でもいいと思われる利用者や、自治体に払う保育料が高いために、無認可園に行った方が長時間保育などのニーズを満たされると思われる利用者もいる。地方では、利用者を抱え込むのに精一杯な園や、定員割れで赤字続きの園が閉園することもあるが、こちらは報道されない。
待機児童が多い地域とは、関東と関西の都心部であることは、言うまでもない。先の厚労省発表によると、東京23区では世田谷の592人を筆頭に、大田、練馬、足立、江戸川と200人以上の待機児童を抱える区が、ぐるり外周部を囲んでいる。さらに、八王子や町田など郊外を巻き込んで東京都内で5千人以上、千葉や神奈川など首都圏を加えると1万人弱が待機している。
大阪市は2千人弱、府下では豊中市が3千人を超えている。宝塚、京都、奈良などを含む関西圏でまとめると、1万人をオーバーする。なんと、全国の待機児童の半数近くは、関東と関西に密集している計算になる。
ところが、単なる数値上だけでは待機児童の問題は語れない。密集の度合いが高くなればなるほど、とれる対策は限られてくる、という問題がある。ひとつの市で2〜3百人ならどうにか分散させられそうだが、区内に2〜3百人いるとなれば、これは受け皿を増やすしか対処できない。しかし、認可保育園を作るには土地建物の供出が必要であり、都内では充分な不動産を確保するのが困難である。こうして、首都圏独自の「待機児童」問題が出現する。ひとくちに「待機児童」と言っても、首都圏とその他、都市と郊外とでは全然状況が違うのである。
マスコミを賑わす「いわゆる待機児童問題」の報道には、首都圏以外の情報を軽視した怠慢な取材と、行政や保育園経営者を槍玉にあげれば庶民感情に訴えられるという安易な計算が感じられる。ガス抜きに使われるのは、たまったものではない。
金・人・物があふれかえる都心では保育園なんて建てられないというのは、実は今までの経済中心のやり方では当然の帰結ではなかったのか。一極集中を省みずに育てる場所がないというのは、目先の庶民感覚としては死活問題であろう。しかしマクロに捉えれば、経済中心のツケが回ってきたということである。「子育て家庭が困って大変だ」というレベルを超えた議論をして欲しいところである。