[反貧困] 「キャバクラ・ユニオン」に見るフリーター労働運動の現在
──小野俊彦(人民新聞臨時特派員/元フリーターユニオン福岡)
資本や権力に「棄民化される民衆」として共に生きる
小泉政権の新自由主義改革で生み出された大量のフリーター。雇用の不安定さは、生きること全体を揺るがし、「自己責任論」と共に若者を追い詰めた。そうした生き辛さの原因を問い、自公政権打倒を掲げて街頭に繰り出したのが全国のフリーターユニオンだ。
「政権交代」という変化の中でフリーター運動は、どの様な新たな主張を掲げ、誰と結びついていくのか? 元フリーターユニオン福岡の小野俊彦さんに、FZRK(フリーター全般労組・東京)を取材してもらい。今後を探ってもらった。(編集部)
「反権力」的なニュアンスの濃い緊張感を維持してきたフリーター全般労働組合
政権交代へと向かう流れの中で「反貧困」運動は、一定の成功を果たした。その象徴的存在である湯浅誠氏が、「自らの仕事に一区切りついた」として内閣参与を辞任したことで、運動の成果が一端総括されるべき時期を迎えている。
その「反貧困」運動とつらなる運動体の中でも、徹底して草の根から立ち上げられる運動の力と政治権力とのあいだで、最も「反権力」的なニュアンスの濃い緊張感を維持してきたのが、フリーター全般労働組合(以下、「F労」)ではないだろうか。
F労が例年取り組む「自由と生存のメーデー」2010年度の告知文には、「ニューディールを越えて」とある。それは、政権による富の再配分や救済(反貧困的政策)からも逸脱してゆく「棄民」たちの流れが、新たな社会を切り開くことへの希望だ。06年の本格始動から現在に至る活動を通じて、大きな社会的インパクトをもたらしてきたF労の現在には、「反貧困運動」以後の社会運動を展望するための材料があるかもしれない。
殺到した水商売からの労働相談
F労は、2010年4月初旬現在、労使交渉案件を約42件抱える。中でも、結成時にはスポーツ紙の一面を飾って話題をさらった「キャバクラ・ユニオン」(以下、「キャバユニ」)関連案件は、現在のF労の駆動力の大きな源泉だ。
いわゆる水商売の世界では、経緯の不明な店舗閉鎖に伴う賃金未払いや不当解雇、不法な天引きや罰金などが横 行し、ほぼ全ての案件が、団体交渉のテーブルに乗らずに争議化してしまう。F労は、粘り強い闘争を通じて相手を交渉のテーブルに引きずり出して、確実に結果を残しているが、これまで光の当てられてこなかった世界で、いかに多くの労働者が闘う手段を必要としていたかを象徴するかのように、現在進行中の争議の三分の二ほどが、キャバユニ結成後、ここ数ヶ月の間に殺到した相談によるもの。
殺到する相談、前例のない「夜のルール」との衝突への対応を迫られながらの、限界に近いフル稼働状況。さすがのF労にも、疲弊の陰は隠せない。自身もアルバイトで働きながら生計を立てる執行委員が、同時に8〜9件もの案件を抱えて、団交や争議という、先の読めない活動に追われている。
女性たちとともに夜の世 界での闘いに踏み込んだF労が、摩滅を強いるような闘いに直面している現状には、フリーター労働運動がこの先で新たな展開を切り開けるか否かの臨界点が近づいている感すらある。キャバユニ関連の争議にまつわるあるエピソードには、「昼の世界」の法制度的枠組みによっては必ずしも救われない現実や欲望を見すえつつ、「ニューディール」を越える世界を展望しようとするF労の前に立ちはだかるある問いが、象徴的に表れているように思われた。