[政治] 自公政権時代の悪法 自立支援法」廃止を明言
【障害者施策】にみる政権交代の功罪
鳩山政権の支持率が落ち続けている。普天間基地問題で顕著なように、保守化したメディアの攻撃による世論操作の影響も大きいだろう。資本の側からの攻勢も激化する中で、派遣法改正は完全に骨抜きとなったが、一方で根本的な変化を起こそうとしている分野もある。その一つが障害者施策だ。
鳩山内閣は、「障害者制度改革推進本部」を設置(09年12月8日)、@障害者権利条約に沿った国内法の整備を行い、A障害者自立支援法に代わる障害者制度の集中的な改革を行うという。同推進会議の担当室長には、車イスで活動する東俊裕弁護士が内閣府参与として就任し、委員も24名の内14名が障害当事者またはその家族という当事者主義が保障された。同推進会議の議論は、これまでの障害者施策を根本的に変える、歴史的な改革につながる可能性を秘めている。
同推進会議の委員として議論に加わっている尾上浩二さん(DPI日本会議事務局長)の話を中心に、推進本部の意義や、議論の方向性について考えてみたい。(文責・編集部)
当事者主義の委員構成
「障害のある人を、保護される対象ではなく、権利の主体として明確に位置づけた」―小川榮一氏(日本障害フォーラム代表)が、制度改革本部を高く評価する理由だ。このため『私たち抜きに、私たちのことを決めないで』という当事者主義が、運営原則として随所に取り入れられている。
当事者主義は、国連主導で作られた「障害者権利条約」(06年採択)の作成過程で特に重んじられた原則だ。国連 では、障害当事者が過半数を占める初の専門家会議が開催され(87年)、障害者利権条約の原案を作成。原案を成案化する条約特別委員会にも、民間障害者組織が多数参加し、日本政府代表団顧問には上記の東弁護士が就任。消極的な日本政府の尻をたたき続けた。
「(障害者の)皆様に重い負担と苦しみを与え、尊厳を傷つけた自立支援法は廃止」を明言した長妻厚労相も、推進会議について「専門家の方々だけではなくて、広く利用される方々の声に謙虚に耳を傾けて、新しい制度をつくっていきたい」と語っている。
「今回は、障害者自身が自己決定できる権利の主体としての存在になる」(脊損連合会代表・大濱眞)、「どんな障害があっても、地域社会で差別を受けることなく、障害のない人と共に、障害のある人が生きがいのある生活を送ることができる法制度の体系の基本となる法律とすべき」(尾上氏)と両委員も意気込みを語る。
会議自体がモデルに
こうした当事者主義原則のもと、会議自体も画期的な運営がなされている。改革推進会議委員は、それぞれ多様な障害を持つため、「会議自体が、合理的配慮(後述)の社会的実験の場」(尾上氏)になっているのである。
一例を挙げると「イエローカード制度」の導入だ。土本秋夫さん(ピープルファースト北海道会長)は、知的障害者である。このため、カタカナ言葉や難しい言葉を理解し辛いために、そうした言葉が出てきた時にはイエローカードを示し、やさしい言葉に置き換えたり、もう一度説明を求めることができるようにしている。知的障害者である土本さんが、実質的に会議に参加するための「合理的配慮」だ。
この他にも、手話通訳は無論のこと、聴覚障害者への合理的配慮として、会議場を円卓にして読唇しやすい環境を作ることも、試みられている。
さらに、こうした合理的配慮は、会議の公開方法にも及 んでいる。会議の模様は、手話・字幕つきで、会議当日の夜にインターネットで配信される。初めての取り組みであるこれによって、当事者である聾者・難聴者も視聴できるようになった。
「権利条約が目指しているインクルーシブ(共生的・統合的)な社会への道のり自体が、インクルーシブであることが非常に重要だ」、「会議自体が、本当にモデルになっていく必要がある」と、長瀬修委員(東大特任准教授)も期待を表明している。