[海外] パレスチナ/ネタニヤフとファイヤドの「経済和平」1年間
──2月10日 「電子インティファーダ」 ジヤアド・ルナート
パレスチナ内部で進む格差と分化
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、占領地=ヨルダン川西岸地区のパレスチナ人と「『経済和平』を実現する」と公約した。パレスチナ人の雇用と生活を改善し、経済発展させれば、「諸問題」が解決し易くなる、という論理であった。
元IMF職員で、ラマラのパレスチナ自治政府(PA)首相に指名されたサラム・ファイヤドは、「ネタニヤフ・ビジョンに飛びつき、昨年8月に補足計画を提案した。
「経済和平」案は国連、EU、米・オバマ大統領─和平プロセスを指令する四重奏団─の支持を得た。トニー・ブレアも、ファイヤドを「一流政治家だ。プロで、勇気があり、聡明」と誉めた。もちろん、ネタニヤフへの「ピースメーカー」との賛辞も忘れずに。
占領状態のまま、パレスチナ人の生活を改善する。これこそが、パレスチナ人の窮状の解決策だというコンセンサスが、政治家や、アラブ諸国の首脳の間で生まれている。
ネタニヤフは、シルヴァン・シャロム副首相を経済和平特別委員長に任命し、ブレアとPAとの調整に入らせた。
この「ネタニヤフ・ファイヤド計画」は、外国資金を引き寄せる磁石であった。
昨年7月、米国議会は2億ドルをPAに送り、ファイヤドの直接管理下に置く決定をした。9月には、国連総会で決定された4億ドルの対PA援助金を、09年末までに各国が送ると約束された。1月には、EUが「PAが80551人の公務員の給料と退職者年金の1月分を支払うための援助」として、2100万ユーロを送った。
この経済開発政策は、失敗したブッシュの民主主義促進政策に代わるものである。
06年の民主的選挙によって、パレスチナ人はハマスを選んだ。しかしハマス政権は、「カルテットの要求(その多くは国際法違反)に合わない」と、イスラエルと西側諸国からボイコットされた。
カルテットは戦略を変え、「穏健派」のパートナーを求めた。その穏健派とは、PA議長マハムード・アッバスだった。彼は先月に2回目の任期切れ(09年初めに曖昧な形で1年延期された)だったが、そのまま居座らせている。
西側の援助国は、ファイヤドを首相に据えさせた。しかし、彼が率いる「第三の道」党は、2006年選挙で3%以下の得票しかなかった。
彼はPA国庫を独占的に管理しているので、巨大な権力を手にしている。「西側は彼をアッバスとすげ替えるのではないか」という憶測が、PA内部でも流れている。
経済開発「西岸地区第一」政策と「経済和平」は、同時にPAへの警告でもある。
「イスラエルと西側援助国に従わないと、ガザの二の舞(=経済封鎖)にするぞ」という脅迫が現実になるからである。ハマスは、そんな圧力によって、少しずつ追い詰められ、「少しでも援助金の分け前を得たい」という姿勢を見せている。
ネタニヤフの経済和平の効果は出始めている。政治面では何ら進展はないが、治安面におけるPAとの協力関係は、これまでになく好転した。米国に訓練されたパレスチナ保安隊が西岸地区で不満分子を抑えて、「秩序」を維持している。夜間イスラエル軍の襲撃がある時は、パレスチナ保安部隊が速やかに姿を消す。情報交換し合うため、「抵抗分子」の逮捕が効果的になった。
英ガーディアン紙は、「パレスチナ保安隊が、米CIAと緊密に協力して反対者を迫害」と報じている。昨年12月、イスラエル入植者が殺害された時、アッバスの保安隊は「超過勤務」で容疑者捜査を行い、数百人の同胞パレスチナ人を逮捕した。
PAの広報担当官は、その入植者殺害事件までは治安状況は「ほぼ満点」だったのに、と語った。その意味は、PA保安隊が毎日起きているイスラエル軍や入植者によるパレスチナ人襲撃を防ぐことができなかった、というのではなかった。逆に、これまでパレスチナ人によるイスラエル人攻撃を完璧に防いだきたのに、ということだったのだ。入植者殺害事件後、アッバスが「同胞弾圧」に乗り出したが、イスラエルの死の軍団がナブルスに侵攻し、報復にパレスチナ人3人を殺すのを防ぐことはできなかった。
イスラエルはPAを、《西岸地区を植民地化する入植者たちの安全を勤勉に守ってくれるパートナー》と見ている。だからこそネタニヤフは、道路閉鎖と、パレスチナの町村間の移動を妨げていたチェックポイントをいくつか解除したのである。
それでも西岸地区内では、578箇所以上が封鎖されている。国連によれば、「封鎖解除によって移動が少し楽になったが、パレスチナ人は土地の喪失、交通網の崩壊、西岸地区の断片化という犠牲を払っている」。