[海外] パレスチナ/ホロコーストとパレスチナ人 イスラエル社会の集団的精神病
──ハリド・アマイレ(パレスチナタイムス記者)
イスラエルの蛮行を止める努力の障害となっているホロコースト
アル・アクサ・インティファーダの初期、ナブルス地区でイスラエル軍士官が、パレスチナ人に手錠をかけ、目隠しをして地面に坐らせた前で、こう言ったという。「我々はお前たちを、かつてナチスが我々にしたように扱っている。将来、我々の支配から自由になったら、誰か他の民族を見つけて、我々がお前たちにしたように扱えばよいのだ」。
ふざけて言ったのではない。その士官は、明らかにイスラエル・ユダヤ人社会が陥っている慢性的集団的精神病の徴候を見せていた。イスラエル人が罪悪感を持たず残酷な仕打ちをパレスチナ人にできるのは、この集団的精神病のためである。元イスラエル空軍指揮官で、後に幕僚長になったダン・ハルツが、2002年7月深夜、F─16戦闘機にガザの人口密集居住区に1d爆弾投下を命令し、子ども11人を含む16人の睡眠中の市民を殺害した夜、「ぐっすり眠れて、何のやましさも感じなかった」と豪語したのも、この精神病の症候である。
実のところ、ホロコーストとイスラエル人のパレスチナ人に対する極悪行為の間には、へその緒で繋がれたような密接な関係がある。とどのつまり、パレスチナ人は、エドワード・サイードが言ったように、「犠牲者の犠牲者」になるのだ。
「もしユダヤ人がホロコーストの犠牲者でなかったなら、パレスチナ人がこんなに悪魔的な手法で、こんなにも長く虐待されることはなかっただろう」と論じても、馬鹿げた議論ではない。
イスラエルは、ナチ・ドイツが作ったとも言えるのだ。確かにシオニズムはホロコースト以前からあったが、シオニズムにユダヤ人国家建設の決定的正当化を与えたのは、ホロコーストであった。
そればかりではない。現在でもホロコーストが、イスラエルの蛮行を止める努力への障害として機能している。程度の差はあれ、ナチス・ドイツの化身と見られるイスラエルが、あらゆる国が従うべき法を逸脱しても国際社会から大目に見られるのは、ホロコーストのためだ。
さらにイスラエルは、パレスチナ人虐待を正当化する手段として、ホロコースト記憶を蘇らせて利用している。入植者たちの「アラブ人をガス室へ送れ!」という呼びかけ(ヘブロンを訪れた人なら、入植者があちこちの壁に書きまくった落書きを見たことがあるはずだ)も、ホロコーストによって正当化される。
イスラエルの犯罪やイスラエル優越主義への批判、パレスチナ人に加えられる理不尽な抑圧への反対、入植者の略奪行為への非難等はすべて、ホロコースト・マントラ(呪文)で封印されるのだ。そのマントラは、「ホロコースト故に、すべてのパレスチナ人は、苦しんで死ぬ定めだ」と唱えている。
現在、若い徴集兵たちは、先ずエルサレムのヤド・ヴァシェム・ホロコースト記念館を見学させられてから、西岸地区へ送られ、ホロコーストとは何の関係もないパレスチナ人を抑圧し、苦しませる任務を命じられる。
ユダヤ人を苦しめたナチと、シオニズムの犠牲者パレスチナ人を結びつける残虐趣味的な心理構造を理解するには、必ずしも心理学専門家である必要はない。イスラエル兵にとって、精神的メッセージは明白である。「パレスチナ人が現在のナチスであり、彼らを殺し、徹底的に痛い目にあわすことで、第二のホロコーストを防いでいる」だ。
パレスチナ人虐待を「ホロコーストへの代理復讐」と感じ、大きな満足感を得るイスラエル人もいる。潜在意識の中では、むしろナチスの残忍性を賞賛さえしている。だから、イスラエル兵はナチスと残酷性を競うように、ナチスの仕打ちをパレスチナ人に投影するのである。彼らにとって、「力は常に正義」なのだ。