[社会] 大阪弁護士会「障害者刑事弁護サポートセンター」設立
──辻川圭乃弁護士(プロジェクトチーム座長)に聞く
無実の罪を自白させられないために
昨秋、大阪弁護士会が「障害者刑事弁護サポートセンター」を設立した。全国初の試みである。また、刑務所を出所した知的障がい者や高齢者の社会復帰を支援する目的で、昨年7月「地域生活定着支援センター」も一部の都道府県でスタートした。
知的障がい者は、無実の罪を「自白」したり、出所後も支援がないために、犯罪を繰り返すケースが多い。弁護人に経験や知識がないため、障がいを見逃してしまうことも原因の一つだ。刑事弁護サポートセンターでは「障害者刑事弁護等プロジェクトチーム」所属の弁護士ら約30人を、サポートメンバーとして選任。担当弁護人に、知的障がい者との接し方や弁護方針の立て方、さらに生活再建法などを助言。メーリングリストも活用し、複数のメンバーから幅広く助言を得られるようにした。
新規受刑者のうち、2割近くが知的障がい者で、高齢者を含む要支援受刑者が近年激増している。知的障がい者の刑事弁護について、弁護士向けのマニュアルを作成した辻川弁護士に、知的障がい者の刑事弁護の必要性について聞いた。(文責・編集部)
知的障がい者と犯罪
刑事弁護といっても、知的障がい者は、被害者となる場合が圧倒的だ。欺されやすく、被害を正確に説明・告発することも困難だからだ。加害者が罰せられないケースも多い。
2003年7月、千葉県浦安市の小学校・特別支援学級に通う女児が、担任による暴力やわいせつ行為を家族に訴えた。担任の男性教諭は強制わいせつ容疑で逮捕され、千葉地裁と東京高裁で審理が行われた。
「わいせつ行為を受けたことに相応の信用性がある」(05年4月・千葉地裁)、「被害を受けたことは、疑問を差し挟む余地がない」(06年2月・東京高裁)との事実認定だ。ところが、両裁判所とも「被害女児の供述内容には一部、誇張または想像の疑いが強い部分がある」(地裁)、「時間と場所の特定に疑問が残る」(高裁)として、被告人は無罪判決となった。
一方、容疑者となって最近話題になったのが、千葉・東金事件だ。2008年9月21日、千葉県東金市の東金南公園近くの路上で5歳の女児が全裸で倒れているのが発見され、死亡が確認された。
千葉県警は同年12月6日、死体遺棄容疑で、現場近くのマンションに住む21歳のKさんを逮捕。翌09年4月、千葉地検は殺人と死体遺棄、未成年者略取の罪で起訴した。公判で弁護側は無罪を主張。12月には、指紋不一致鑑定を地検に提出した。Kさん無罪を証明する重要な鑑定書である。
弁護人は接見の初日(08年12月9日)に、捜査機関に対し、@取調での全面的なビデオ録画化、A供述調書は取調官の「作文」(ストーリー)ではなく、一問一答方式による調書化、そしてB被疑者Kさんの自己防禦能力を中心とした訴訟能力の簡易精神鑑定、を要求したが、拒否されている。
「やっていないことをやったと言うはずがない」─これが常識だ。だが、「無実の犯罪を『やった』と言うことの意味や重大性を理解できない場合が多く」(辻川弁護士)、取調官の誘導に簡単に乗せられてしまう。表面的には、「全部認めている」として裁判は終了。結果、「たくさんの知的障がい者が刑務所に入っている」(同弁護士)。
「一見、しっかりした受け答えをしているように見えても、質問の内容を理解していないこともある」と辻川弁護士は指摘する。障がい者手帳を持っていない場合、弁護士も障がいに気づきにくく、そのまま無実の犯罪者とされてしまう。