[コラム] 迫共(さこともや)/保育分野担う新自由主義者たち
今、保育園経営者に求められることとは
昨年11月16日、『週刊ダイヤモンド』に次のような記事が掲載された。「クローズアップ『新規参入は断固阻止!! 保育園業界に巣くう利権の闇』」。
「認可保育園の園長は年収1200万円。多額の補助金が入るので、まともな経営努力はしていない」「保育園の業界団体は、待機児童対策よりも自分たちの利権を守るため、株式会社の保育園参入を阻もうと行政に圧力をかけている」などといった内容。ネットを中心にセンセーションを巻き起こしたが、身近に保育園利用者がいる一般の人たちからは眉唾な記事だという批判が多かった。筆者も、まともな取材をせずに書かれたものだと考えている。
文中にも登場する学習院大教授の鈴木亘氏は、時事通信フォーサイト(09年9月19日)で「『潜在的待機児童八十万人』を解消するために」という記事を書いているが、内容は酷似しており、ダイヤモンドの記事はこちらを雑に焼き直したように思われる。
保育士の待遇が低いということは以前にも紹介したが、東京23区だけは例外である。23区の公立園には、都からの潤沢な補助金が入る。しかし、その他の地域の公立園とは大きな開きがあるし、まして民間認可保育園とは天と地ほどの開きがある(さらに無認可になれば、ほとんど自主財源だけになる)。鈴木氏らの主張は、例外的に恵まれた一部を全体に広げて議論している。そして彼は、現職の内閣府・規制改革会議専門委員で保育問題担当者である。事情を知っているはずの人間が、意図的にこのような情報を流しているということになる。なぜこのような人物が内閣府にいるのだろうか。
実は鈴木氏の師匠は、障害者自立支援法や介護予算カットのために暗躍した小泉・竹中の御用学者、八代尚宏・国際基督教大教授である。規制緩和、市場開放を最優先にして福祉予算を削り、利用者と福祉現場の負担を増加させたエコノミストの残党が、保育関連予算を最後の保護区のように見なして、潰そうとしているという構図が見えてくる。
彼らに予算を削られた介護福祉の現場では、慢性的な求人不足、非正規雇用や外国人労働力の流入といった問題が起こっている。保育園でも同様のことが予想されるだろう。財源が削られて、労働の質が低下、人材が流出する一方、保育園は増えず、待機児童は解消されなくなるということが容易に予測できる。母体が営利企業の保育園が増えれば、年度途中でも廃園、行き場をなくす子どもたち…といった現象が各地に起こるだろう。
09年末には、総務省が鈴木氏らの動きに呼応したのか、「子ども手当」の予算確保のために保育所運営費の国予算を無くし、地方財源だけでの運営を求めるという本末転倒の動きを見せた。現状では社民党などの連立政党が歯止めとなって納まっているが、民主党の単独政権となればそうはいかない。来年秋の予算編成にはさらに厳しい局面が訪れるのではないだろうか。
もちろん待機児童が少なくなり、子どもたちの育ちが保障されることが最優先である。一方で福祉・介護労働者の待遇改善も図られなければならない。予算カットは、正しい選択ではありえない。
筆者は、次の2点が保育園経営者に求められていると考える。
第一に、保育士、保護者、地域に対して、保育園の財務状況や運営についてできるだけオープンにすること。第二には、補助金の効果的な運用努力とその成果を明らかにすること。こうした努力がなければ、一部の政治家や学者に思いのままにされたとしても、保育園のピンチに手を差し伸べてくれる人たちはそう多くないだろう。