[コラム] 栗田隆子/先を見据えた女性の問題への取り組みを
男女雇用機会均等法から25年
2009年8月末。政権交代に伴い、女性議員は過去最多の54人を記録した。そして福島瑞穂氏が、消費者・食品安全・少子化・男女共同参画担当大臣に任命された。
とはいえ、まだまだ日本という国は女性の「社会」(ほんとうはこの「社会」という定義こそ問いなおしたいのだけれど)進出という「分かりやすい」領域でも男女平等からほど遠い。2009年10月に世界経済フォーラムが発表した男女格差指数において、日本は総合で75位。政治への参加を表す「女性国会議員の数」は105位というランキングだ。「層」としての女性の地位はほとんど変わっていない―「男女雇用機会均等法」という法律が25年前にできたにもかかわらず。
このような状況の中で、今後の女性の(ひいては男性の)状況を考えるためにまず、1人の学者の話をしたい。なぜならこの人物は、25年前に成立した二つの法律―一つは先ほども触れた「男女雇用機会均等法」、もう一つは「労働者派遣法」―のどちらにも思想的に関わっている人間だからだ。
八代尚宏。国際基督教大学・社会科学科教授、専門は労働経済学。
彼の名は、労働問題にある程度踏み込んだ人間であれば誰でも知っているはずだ。彼は「正社員と非正規社員の格差是正のため、年功賃金の見直し等、正社員と非正規社員の賃金水準の均衡化に向けた方向での検討も必要」と語っている。さらに、非正規社員を正社員に転換する制度を導入するなら、同時に正社員の過度の雇用保障も見直す(つまり待遇を引き下げる)べきであり、そうすることが企業・労働者双方の利益に結びつくと考えているという。この発想こそが派遣労働を牽引しているといっていい。
彼は一見正論の「平等」をうたっているように見える。しかし、日本では基本的に年金・雇用保険・健康保険等のセーフティーネットは、雇用先である「企業」が負担するという仕組みを「基本」としてしまっている。その「仕組み」への根本的な疑義、および新たなセーフティーネット構築の代案を「正社員と非正規社員の平等」と同じくらいの情熱で主張しなければ、彼の「平等」は結局、企業の無責任を促進し、関係の貧困に追いやることになる。
とはいえ、彼は突然このような発想に至ったわけではない。非正規雇用云々の前に恐るべき伏線がある。『竹中恵美子 女性労働研究50年 理論と運動の交流はどう紡がれたか』(竹中恵美子・関西女の労働問題研究会著/ドメス出版/2009年)によれば、彼は85年の男女雇用機会均等法成立前後に、「(女性に対する)保護は平等を疎外するという認識からさらに進んで、結果の異なるものを平等に扱うのは差別だ」という主張をしていたという。その主張には「再生産領域」=「家庭」の労働を女性が一手に担っている女性の立場などは、全く考慮をしていなかったという。だからあくまで機会の均等、男女雇用機会均等法、なのである。社会的に弱い立場、不利な立場に置かれている人間が全く眼中にない発想。同時にこのような女性への視点を放置していたがために、今の派遣労働の問題、すなわち若年層を中心とした男性へと惨状が拡大していった、と言えないだろうか。
今、派遣法の審議がなされている。「派遣」は企業の雇用調整弁に役立ち、そして何より「女性」がこの働き方を望んでいるという言い方が、平気で審議の場でなされている。
女性の労働・生存の問題をクリアしなければ、人権に基づいた雇用の多様性を保障する社会は実に遠い。この25年間、雇用における男女平等という言葉は実に虚しかった。
この1年は、今後20年を見据えた上での活動を考えなければいけない。その1歩を皆さんと一緒に歩んでゆきたい。