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▲左:市田良彦氏。神戸大教授(社会思想史)、右:生田武志氏。釜ヶ崎で生活しながら野宿支援活動を継続。

▲兵庫県尼崎市「どるめん」にて
更新日:2010/02/01(月)

[反貧困] 欧州の社会民主主義は日本のモデルか?
──対談:市田良彦、生田武志

対抗運動は、政権交代にどう対応するのか?

「米国がだめなら、次は欧州モデルで」という安易な選択では、もう日本の未来は描けない。民主党が掲げる「国民生活第1」というスローガンは、社会民主主義を連想させるが、具体的な政策の中身はなく、市田さんが指摘する「欧州社会の3層構造」への対処も準備されていない。

こうした「政治」の外側で、資本主義には馴染みにくい農業に関心が向かっている。賃労働の外側で生きる方法や場を模索する動きも、大規模ではないが、着実に根を下ろしつつある。自前で食い、協同の労働で生活の必要を満たす自治的空間を広げていくことが、我々の戦略目標たり得るだろう。(編集部)

欧州社会の3層構造

生田:「ビッグイシュー」のような社会的企業が日本でも広がってきました。ここで安全網が課題となっています。日本の起業率は5%以下です。先進国では異常に低い数字で、日本は企業自体が「少子高齢化」です。新自由主義どころか、資本主義すらもう危ないというおかしな社会です。

起業できない理由を尋ねたアンケート調査では、「失敗した時の生活不安」が1位を占めています。安全網がないがゆえにチャレンジできない。「失敗したら再起できないかもしれないけど、チャレンジしろ!」と言われてチャレンジする人は、あまりいません。社会的起業のためにも、安全網は重要です。

市田:安全網の概念自体が、新自由主義とセットで出てきたものです。そこで社会民主主義体制をとってきた欧州諸国の安全網を観てみると、実は、それほど充実したものではないのです

北欧の高福祉社会が日本のモデルとしてよく語られますが、例えばデンマークでは、生活は福祉で保障されますが、福祉施設にいる高齢者が病気になっても医療ケアは受けれなかったりする。つまり、「高齢者は病気になったら死ね」という一面がある社会です。

スウェーデンには優生思想の伝統も残っていて、1970年代まで社会保障とセットで国家ぐるみの断種手術が行われていました。フランスは正社員は極めて優遇されていますが、社会保障の企業負担が大きいために、何の権利もともなわない「闇労働」を横行させてきました。

つまり、欧州の社会民主主義は、「国民・正社員」という限定した範囲の中で社会保障は充実させるが、その外側に相当数のこぼれ落ちる層を前提としており、かなり悲惨な生活が待っています。そうした不安定層を社会全体としては労働力として必要としているにもかかわらず、です。

スイスは、外国人の国籍取得に厳しいことで知られるし、欧州全般で若者の失業率は極めて高く推移しています。つまり、@「国民・正社員」の下に、A国民・非正規雇用者がいて、さらにその外側に、B外国人労働者がほぼ無権利状態で放置されている、という3層構造です。

民間福祉が脆弱な日本

生田:そうした層をサポートしているのが、キリスト教などの民間ボランティア活動なんですよね。

市田:そう、民間福祉です。でも日本には、民間福祉の伝統がないために、家族が支えているのでしょう。

生田:ニューヨーク市で「9420家族がホームレス状態」という記事が掲載されました。今は、1万世帯を超えているでしょう。

でも彼(女)らの多くは野宿ではなく、公立や民間のシェルター(避難所)に入っている。キリスト教の伝統を背景にした民間のボランティア活動が、底辺を支えているのです。

釜ヶ崎などでもキリスト教団体は頑張っていますが、日本全体でみると、部分的と言わざるを得ません。

市田:ですから、民主党が欧州の社会民主主義をモデルとして語るのは、安易な幻想をばらまいているだけで、危険です。民主党は、若者の高失業率・大量の外国人貧困層という欧州の抱える現実を受け入れる覚悟があるのかと言えば、ないでしょう。

生田:自民党政府が無批判にアメリカをモデルにして失敗したことは衆知のことですが、これからの日本のモデルが描けず途方に暮れているのがいまの現実です。

私は、オランダをモデルにした変革が有力だと考えています。理由は2つです。ワークシェアリングを導入し、@正規雇用と非正規雇用の格差をなくしたことと、A性別役割分担を見直したこと、です。

Aで家族制度の見直しに踏み込んだことを強調したいと思います。男も女も平等に、いまの労働時間の3分の2程度働き、家事や育児を分担するという仕組みです。
 民主党政権が「欧州モデルを目指す」といっても、どこの国のどういう制度なのか?不明です。つまり中身がないのです。

経済成長ゼロの社会

市田:そう、本気で言っているとは思えませんね。だから「事業仕分け」みたいなことに熱中したりするのです。あれは、行政のスリム化ですから、新自由主義の政策です。

いずれにせよ、我々に必要なのは、どいういう社会を目指すのか?というグランドデザインを示すことと、国家に何をやらすのかということを、分けて考えることです。

政府に、@所得の再分配機能と、A経済成長を促進する機能があるとすれば、製造業を軸に考えるかぎり、Aはもう無理です。経済成長を前提としない新たな社会像を提案し、政策転換を迫ることが、我々の課題であり、これが鍵だと思います。所得再分配と産業構造の転換を同時に進める政策ヴィジョンを、こちらから出していく必要がある。神聖視されている私的所有権にも、大胆に手を付けるべきでしょう。

生田:企業も経済成長を目指していますが、それにしても方向性が間違っています。「海外の労働力は安いのだから、日本も安くしないと勝てない」「労働者をクビにできないと企業が潰れるから、解雇要件を緩和しろ」などと、マイナス―マイナスに向かっている。

中国や東南アジアの労働者と同等の賃金水準にするのは所詮無理ですし、彼らは「将来の日本のため」と言いながら、実際は自分の首を絞めているのです。経済成長を目指すと言うのなら、低賃金で買いたたくのではなく、高付加価値の仕事を目指して、若者の職業訓練に費用を出すという方向が必要でしょう。

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