[コラム] 雨宮処凛/「人が立ち上がる瞬間」の感動
議会の「外」ではなく、政権の「中」で
政権交代がなければ、貧困も不安定雇用も絶望的な状況だったので、新政権の登場自体は歓迎しています。これまで反貧困を叫んでも、自公政権は「そんなの自己責任だろう」で終わりだったのですが、民主党には貧困問題に関心を持っている議員が比較的多いと思います。集会にもマメに顔を出していましたし、「話を聞かせて欲しい」と依頼されたこともありました。
これまでの反貧困運動は、いわば議会の「外」で騒いでいたわけですが、湯浅さんが内閣府の政策参与になって、政権の「中」で文句を言えるようになったことは大きな変化です。外で騒ぎながら中にも食い込んでいくのは、活動家としても、現実を変えるという意味でも、理想的なやり方だと思います。
「取り込まれてしまう」という不安を持つ人もいますが、湯浅さんが持つ豊富な知識や真摯な姿勢があるので、大丈夫だと思っています。ただ、責任ある政府側の立場になったので、運動側と湯浅さんがテーブルの向こう側とこちら側で対峙する、というネジレた場面が生じる可能性はあります。でも反貧困ネットを中心に、湯浅さんをバックアップする体制が作られつつあるので、こうした心配も最大限避けられると思います。
湯浅さんは、一人で決めないで、いろいろな人や組織と相談しながらやってきましたし、反貧困ネットだけでない様々な運動体の意見が、直接湯浅さんに届けられるようになっていると思います。
新政権になってすぐに、湯浅さんが訴えてきた日本の貧困率が発表されました。といってもOECD発表の流用なので、これから政府としてしっかりした調査が必要ですが、貧困者の実数・比率、その中に一人親世帯が占める割合などが発表され、ニュースになっただけでも効果はあったと思います。
ナショナルミニマム研究会委員に
私も湯浅さんとともに、厚労省のナショナルミニマム研究会の委員に推薦されました。この研究会で、貧困率の削減目標などを定めることになると思います。私も入るかどうか悩みましたが、私たちに求められているのは現場の声を伝えることです。
生活保護の母子加算は復活しましたが、切り下げの圧力はいまだにあります。生活保護基準の切り下げ圧力もあります。こうした逆行に歯止めをかけるのが役割だと思っています。
さらに、研究会で出された資料や議論の内容をリアルタイムで書くことができるのも、大きなことです。これまでこうした議論や資料は公開されなかったので、決まっていく過程を可視化することは大事なことだと思っています。