[情報] 「社会を変える」方が面白い
──ユニオンぼちぼち書記長・高橋慎一さん
人はなんとか生きていける!
高橋さんは、1978年生まれ。立命館大学文学研究科博士後期課程単位取得後、退学。研究テーマは「セクシャルマイノリティの社会運動」だ。大学院スタッフと看護学校での非常勤講師を掛け持ちし、自立生活を送る脳性麻痺者の介助をする登録ヘルパーでもある。
収入は1ヵ月に8万〜10万円。ユニオンぼちぼちではセクシャルマイノリティ分会を作り、当事者の相談を積極的に受けている。
「研究とは社会を作り直す言葉をつむぐ仕事」だと、高橋さんは思っている。でも今は、社会を変えていく実践の方が面白い。
収入の半分は登録ヘルパーなどで稼ぐ。しかし時間の余裕を持ちたいので、ヘルパーの仕事はあまり入れられない。それでも去年の秋は月300時間働いたが、体を壊したため時間を減らした。
なぜ時間の余裕を持ちたいのかといえば、ユニオンぼちぼちの労働相談や団体交渉、抗議行動などの活動や、無償の介護や介護労働者の待遇改善運動など金は出ないけれど、高橋さんにとっては大切な活動をするためだ。必然的に不安定就労状態になる。
それで不安にならないかと聞くと、「そんなに気にならない」と高橋さんは笑った。以前、高学歴ワーキングプアを取り上げたテレビ番組で取材を受けたが、「周りに失踪した人や自殺した人はいませんか?」と聞かれた。取材者は悲惨な大学院生・卒業生を探していて、高橋さんの楽観的な姿は、取材の意図と合わなかったようだ。結局、高橋さんのインタビューは放送されなかった。
昔は「貧乏が怖い」と思っていたけれど、今は怖くない。周りに貧乏でも楽しく生きている先輩が多くなってきたからだ。それは、自立生活を送る障がい者や介助者、ユニオンぼちぼちの仲間たちなどだ。
障がい者の自立生活運動との出会いは、高橋さんにとって大きかった。365日24時間ボランティアの介助で生活をやりくりしている障がい者を見て、人は何とか生きていける!と、思った。
今考えているのは、今は収入になっていない活動を、収入につなげられないか?ということだ。
労働相談での解決金で、ユニオンの会計が豊かにならないか、障がい者運動の歴史を残す作業に企業助成金はとれないか…いろいろなアイデアを模索中だ。
労働組合って使える
大学時代は、ノンポリ学生で一人が好きだった。学生運動に対するアレルギーもあったし、集団で群れていることが嫌いだった。
そんな彼が変わったのは、大学院生になってからだ。05年、立命館大学で国際学会があって、高橋さんが立命館大学の管理体制を批判する展示をしようとしたら、「過激すぎる」と、学会の実行委員会から反対された。そのときに、学会の批判をしていたメンバーから支えてもらった。
学生運動をやっている人たちは、仲良くなってみると気のいい人たちだった。それが活動のきっかけになった。
院生連合協議会に入り、大学院博士後期課程の学費値下げを勝ち取った。しかし、大学院生のティーチング・アシスタント(授業で学生の補佐をする仕事、以下TA)が学生に暴力を受けるという事件が起こった。大学と交渉したが、当該TAと学生個人間の問題にされて、大学は関係ないとされた。「本当に大学には責任はないのか? これは労災問題なのではないか?」と高橋さんは疑問に思った。
06年、非常勤講師が首切りに抗議して、ハンストをした。TAも非常勤講師と同じく、大学で働く非正規労働者だ。大学と交渉するときに労働組合が使えるのではないか?と思った。
そんなとき、友人から「大学で労働組合を作ろう」と誘われ、高橋さんはユニオンぼちぼちの団体交渉に参加してみた。
その交渉の席で社長が警察を呼んだが、慣れた組合員は平然として追及を続け、民事不介入だからと、警察にも何もされなかった。「労働組合って使える!」と感じて、高橋さんはユニオンぼちぼちの立命館分会を結成した。