[コラム] 深見史/舐められるな、大衆。テレビを消そう!
覚醒剤騒動に隠された? 鳩山所信表明
覚醒剤の使用で逮捕・起訴され執行猶予判決を受けた歌手が、「夫と離婚して覚せい剤を断ち切りたい」「芸能界を引退し介護の仕事をやりたい」と大学に入学、その大学がまさかの入学希望者激増とかの、口にするのも気持ちの悪い話が、テレビも新聞も見ない私にも伝わってきた。
この話は、気持ち悪さのツボが一つではないところが、更に気持ち悪い。
@言うまでもなく「覚醒剤」は、日本で開発され、「疲労をぽんととる=ヒロポン」などの商品名で流通していた、元合法薬である。戦争中、日本軍が軍需工場の作業員や夜間戦闘機の搭乗員に配布していたことは、あまりにも有名だ。覚醒剤は、国が奨励して自ら使用していたものなのだ。副作用に問題があるとして覚醒剤取締法によって使用禁止となったのは1951年、大昔から「犯罪」だったわけではない。まさかその歴史的事実をすっかり忘れたわけではなかろう。「手を出すのは人間失格者、取り返しのつかない悪魔の薬。だめっ、ぜったい!」なんかではなく、法律で使用できたりできなくなったりする薬の一つにすぎないのだ。煙草だって、法改正によって「人間として終わり、土下座してあやまれ、仕事はキャンセル、介護学校へ行け」と言われる悪魔の葉っぱになる可能性は、いつでもある。いちいち大騒ぎするほどのものではない。コーヒーに含まれるカフェインも覚醒剤の一種だから、私も覚醒剤中毒だぞ。
Aたしかに法律違反ではある、しかし、それがどうしてCDを発売中止したり、出演ドラマから降ろされたり、出演CMが中止になったり、介護学校に行くことになるのか? 裁判員制度のドラマに出演しているのが悪い? 裁判経験者のほうが良いに決まってるじゃないの。なぜ歌手・タレントはダメで、介護は「許される」のか。覚醒剤で介護学校入学とは、給食を残した罰に便所掃除をする、というような話ではないか。介護の仕事は「罪を清めるおシゴト」とでもいうのか?
B例によって「公判では20席の傍聴席に対し6615人が集まり、330倍という日本の刑事裁判史上過去最高の倍率となった」などとまことしやかな嘘(「傍聴券を求めて並ぶ人々」は並びバイト、「関心の高さがうかがわれた」はマスコミの自作自演であることは周知の事実だ)を流したマスコミのバカ騒ぎは、当然ながら裏の目的のために行われたと見るべきだ。大衆の目をそらせたいことがあると、「視聴者の関心の所在」を理由に大騒ぎを演じてみせるのが、マスコミの役割なのだ。
この事件の日、ほかでもなく鳩山首相の所信表明演説が行われた。52分間の演説をトップで報じたのはNHKとテレビ東京だけ、その他のテレビ局は歌手の公判情報をだらだらと見せた。法廷からわざわざ走ってきて息を切らせ、時折滑って転んでみせたりしながら、「はっ判決が出ました! はあはあ、しっ執行、ゆっ猶予判決です!」などと、まさかの日本国内戦が開始されたかのように叫んだのに違いない。(私はもちろんそんな汚らわしいものは見てませんけどね〜)
一人の女の、たかだか覚醒剤取締法違反の公判が新政権の方針以上に重大だとする根拠はどこにあるのか。目をそらせるほどの価値があったのか、と鳩山所信表明演説を見直してみたくなった。