[社会] お客・地域との関係を求めて
──山岡茂和さん(京都市・山岡酒店)
自営業の醍醐味
「店やると楽しいよ」―計画するのも、実行し責任とるのも自分。そんな自営業の醍醐味を語る山岡さんだ。
京都西陣の千本商店街、店頭には京野菜が並び、一見、八百屋のようだ。本当に酒屋なのか?とショーケースを眺めると、見たことのない小振りの瓶が所狭しと並んでいる。そこへ山岡酒店3代目の山岡茂和さんが、柔和な微笑みを浮かべて配達から帰ってきた。店の奥のスペースでお話を伺った。(編集部 唐崎)
会社の都合でクビ切られるのは嫌だ
「勤めせえへんの?ってよく言われたけど、会社に勤めるのは、会社を信用せんとあかんから」と、山岡さんは言う。
小学校5、6年生の頃に、国鉄民営化や、電電公社がNTTになったりなど、首切り、リストラの嵐があった。大学に入る少し前に、銀行が潰れ始めた。安泰だと思われていた大企業の倒産や、潰れないと思われていた会社の倒産で、価値観が崩壊した。
安泰というのはないと知った。「自分の都合で辞めるのはいいけど、会社の都合でクビ切られるのは嫌だなあ」と思った。
京都大学農学部を2000年に卒業した山岡さんは、就職氷河期の、いわゆるロスジェネ世代だ。就職難の時代だったからでもあるが、就職活動をせずに家業を継いだのは、他人の都合で働くより、自分がやりたいことをしたいと思ったからだ。
「いまは、労働者を使い潰して捨てる会社が多い。自分は、家族が店をやっていたから気軽に始められたけど、自分で商売をやるのもいいんちゃうかな」「いま若い人が農業にあこがれるのも、自然に触れたいだけでなく、自分で決めてやれるというのがいいんちゃう?」と、山岡さんは語る。
努力しても、結果が出るまでに時間はかかる。「待つってのが大事」と、山岡さんは言う。石の上にも3年と言うが、5年くらい続けていると、周りが信用してくれる。日本酒専門店では「20年やったら専門店」と言われている。
大儲けもできないけど、好きな仕事ができるのが楽しい。生まれたときからやっていたし、趣味も仕事も一緒。非常に気が楽。自分がおいしい、と思う物を売って評価される。もう少し儲かればいいけど。