[コラム] 迫共(さこともや)/おたくの保育所大丈夫?
保育士配置の規制緩和が進む先には…
11月4日、厚生労働省は、保育所の居室面積や児童の年齢にそった保育士配置の基準を定めた「設置基準」の弾力化を方針決定した。この決定は、大阪や東京など都市部のみ、待機児童問題が解消するまでの一定期間に限った居室面積の基準緩和、という点だけであるが、今後どうなるか分からない。
職員の配置基準を弾力化させればどうなるだろうか? 例えば現状では、0歳児3人に保育士1人である。これが「最低基準」であるということは、業界では共通認識となっている。ギリギリでもどうにか回せなくはないが、子どもを預かるだけの保育になってしまう。多くの園が基準以上の人員を配置して、バランスを取っている。
規制緩和が進めば、単に子どもを詰め込んで預かるだけの保育所が現れ、認可保育所のレベルが全体的に低下してしまう危険性がきわめて高い。日本保育学会や保育園を考える親の会が反対のアピールを出しているのは、この危機感からだ。
そもそもなぜ待機児童が増えるのか? そしてなぜ今なのか? 与党・民主党は、扶養控除と配偶者控除の廃止を方針決定している。これは、今まで主婦の労働を年収103〜130万円に抑えていた、いわゆる「働き控え」を解除させて、女性の労働力化を促進する方向に進むということだ。
女性の社会参加は歓迎だし、それによって景気の低迷が少しでも補えるなら、反対することではない。しかし、働く母親が増えれば、待機児童はもっと増える。今回の規制緩和はそのための予防措置なのではないか、と思われてならない。
一方で保育士をはじめとする福祉業界の賃金の低さは、一向に大手マスコミが報道してくれない。例えば、うちの保育所は45人定員と小規模なせいもあるが、運営にあてられる補助金は月に400万円あまり。職員15名の人件費と給食費と固定費だけで、手一杯である。朝から晩まで肉体労働と感情労働を強いられる保育士の給与は、30歳を過ぎたベテランであっても、手取り16万円程にとどまる。主任にならなければ20万円には届かない(しかし実は、保育士の給与は福祉業界の中ではまだまだ恵まれている方なのである)。
報道されている内容からは、予算配分には話が及ばす、待機児童の解消のために受け皿を広げよという指令だけがなされるように感じられる。利用者と保育士の所得格差が広がり、福祉労働者の貧困化が進んでしまうように思えてならない。
現場は、将来のある子どもを思う職員の熱意と善意でようやくまわっている。これ以上の負担をかければ、配慮も意欲もない保育所が粗製乱造され、全体的な質の低下が起こるだろう。民主党は最低賃金の引き上げも謳っている。福祉業界の賃金を引き上げられるだけの予算措置は取られるのだろうか。今後も注意深く見守っていきたい。