[政治] 沖縄・普天間基地移設 暴力的なまでに飛躍した論理の「環境アセス」
──名護市・吉川秀樹
迷走を続ける国外・県外基地移設公約
鳩山政権の「沖縄基地問題」への態度が腰砕けになっている。「日米地位協定の見直し」など、「対等な日米関係」を掲げる同政権だが、ゲイツ米国防長官に続く、オバマ大統領の訪日を経て、国外・県外基地移設公約は迷走を続ける。これまで通り、対米追従路線を継続するのか。
11月8日の沖縄県民大会では、2万人余が集まり、普天間飛行場の辺野古移設反対の声を上げた。沖縄選出の民主党・喜納昌吉参院議員は、「自公による辺野古移設案を追認するなら民主党も同罪だ」と発言し、喝采を浴びた。自民党沖縄県連も、県外移設に傾きつつあるという。名護市在住・吉川秀樹さんに現地報告をお願いした。(編集部)
環境アセスの現状
オバマ大統領の来日を控えた11月2日の衆議院予算委員会。沖縄・辺野古への普天間基地移設計画の見直しを掲げる鳩山政権に対し、自民党の町村信孝議員は、移設計画の「環境アセス」が終わりに近づいていると強調し、後は着工のみであることを示唆した。そして、計画見直しは「日米関係を損なう」と牽制した。
その後、移設反対を訴え2万1千人を集めた沖縄の県民大会、そしてオバマ大統領の来日が続く。これら一連の動きの中、「環境アセス」という言葉は、政治家の発言やメディア報道から消え、「沖縄県民の思い」と「日米合意」を天秤にかけての「政治判断」が、移設問題の行方を決めるかのように語られている。
しかし、環境アセスの現状は、終わりに近づいているとは言い難い。そして「政治判断」は、決して「環境アセス」の代わりではないはずだ。
法制度としての「環境アセス」
環境アセスとは何であろうか。それは、環境に著しい影響を及ぼす事業を、環境保全の視点から、市民住民を含めた当事者による合意形成のもと、より環境に配慮したものにしていく法的制度である。
それゆえ環境アセスは、工事が始まる前に行われる。予想される環境への影響について「事業者」が「調査」をし、「予測」をする。そして影響があると予測された場合、その影響を緩和あるいは避けるための対策を示し、事業が妥当なものであるか「評価」をする。
事業者によるアセスの適切さを担保するため、市民住民および関係自治体の首長が「意見」を述べる仕組みが法的に設置されている。また自治体が、専門家や市民の意見を聴取するアセス委員会等を設けることも可能である。そして環境への影響があまりにも著しければ、事業の中止もありえるのだ。
史上最悪のアセス
普天間移設計画に関わる環境アセスは、すべての過程において様々な問題を呈してきた。日本の環境アセスを先導してきた島津康男氏は、このアセスを「史上最悪の独善アセス」と言い切っている。その最大の理由は、「日米合意」の名の下に「建設ありき」ですべてが進められていること。そして、基地を建設するのは日本政府で、使用するのは米軍という、極めて特異な構造の存在であろう。
今年4月に提出された「準備書」は、これらの問題を如実に示している。辺野古/大浦湾が生物多様性に富んだ脆弱な環境であるという「調査」結果が示された一方で、そこに基地を建設しても「影響は総じて少ない」という「予測」・「評価」がなされている。
その暴力的なまでに飛躍した論理は、意図的ともとれるデータ隠し、歪曲提示、科学性を欠く影響への対処の提示等の手段を通して展開されている。
例えば、国際的に絶滅危惧種に指定され、保護が求められているジュゴン。そのジュゴンが大浦湾に進入している調査結果を示しながら、また沖縄島最大のジュゴンの餌場である辺野古先の海草藻場が基地建設により潰されるとしながら、ジュゴンへの影響は少ない、と準備書は結論づけている。
そしてその結論をとりつくろうため、航空機への燃料を運搬する船舶等に「見張りを励行させるほか、ジュゴンとの衝突を回避できるような速度で航行する」という、科学性も実行性も極めて低い処置法を米軍に求めている。
ちなみに、準備書において「影響が少ない」と判断した「専門家」の名前は、一切公表されていない。