[社会] 食品産業にみるグローバル化
──松平尚也(地域・アソシエーション研究所 アジア農民交流センター)
シアトルから10年の反グロ運動
2009年は、WTO(世界貿易機関)シアトルでの闘いから10年目となる。反グローバリズム(以下反グロ)運動を考える上で節目の年だ。アメリカでは当時のシアトルでの状況を振り返る映画「バトル・イン・シアトル」が2007年に公開され、今年6月に日本でもDVDが発売されたらしい。
反グロ運動やグローバリズムの問題点も、当時よりは広い層で認識されるようになった。しかしグローバリズムは、普段の暮らしの中でより深く、強くなったと感じている。
日本のグローバル企業と私たちの暮らしを見てみると、その輪郭が少し露わになるだろうか。例えば私たちが日々の生活に欠かせない衣服。アパレル産業で起こっているのが、ユニクロやしまむらといった、一部の巨大衣料企業の圧勝という状況だ。街角では小さな衣料品店が姿を消した代わりにユニクロなどの大型店舗が目立つようになった。そうした企業は、徹底的なコストダウンを目指し、途上国で工場を展開している。「衣料デフレ」とも呼ばれる終わりの見えない安売り競争の向こう側には、低賃金・長時間労働で働く労働者が存在する。
しかし消費者だけでなく、活動家にも生活レベルからの反グロ、つまりそうした労働者への視線や連帯意識はあまり見られない。思想と生活は連動しにくいのだろうか?
私は5年前から田畑を耕し、何とか農業で生計を立てていこうと漬物や農産加工に取り組んでいる。しかし食品産業や流通そして農業の現場でもグローバリズムが貫徹されていると痛感する機会が多い。食品小売分野ではイオンとセブン&アイ。外食産業においてはマクドナルドや吉野家。食品加工業における味の素など一部の巨大食品企業が各分野でのさばっている。今や街の至る処、食卓からメディアまで食品産業が絶大な影響を持つようになった。
その何が問題なのか? と言う方もいるかもしれない。確かに大企業は均一な商品をより安く消費者に届けることには長けている。ただ利潤を追求するあまり、特に外食産業や食品加工業は、食材のコストを徹底的に抑えようとする。結果、輸入農産物に依存し、国内生産者が太刀打ちできないような低価格で原材料が取引される。
今や農業・食料関係売上高の内、農業生産高が全体の10%に過ぎない一方、食品製造業が35%、食品流通業27%、飲食店20%とそのほとんどを占め、日本の農業や食卓のあり方を大きく規定するようになった。
土地を買い占めるアグリビジネス
しかし昨年世界を襲った食料危機は、日本の食品産業の根底を揺さぶり始めている。もう安定的に農産物を輸入できなくなってきたのだ。