[海外] ベネズエラ/中南米革命運動のセンターへ
──神戸大・市田良彦さんインタビュー
貧困層の生活改善軸に「参加と自治」
8月中旬、神戸大の市田良彦さん(社会思想史)が、ベネズエラ政府からの招聘で同国を訪問した。平和の日・シンポジウムへの参加が主な目的だが、滞在中、「バリオ」と呼ばれる貧困地域への訪問、各省庁幹部との懇談など、短期間ながらベネズエラの今を様々な地点から観てこられたという。「中南米革命の中心」となりつつある、ベネズエラで起こっている変化とは?(文責・編集部)
国民国家形成としてのチャベス革命
チャベス以前は、まともな国民国家ではなかったと思います。「政府」は、石油会社・米国に支えられ、彼らのために働くだけの権力でした。石油はほとんど米国に輸送され、国民には全く還元されない。政府は社会の薄い表層に浮かぶ島のようで、社会は解体状況だったのです。
チャベスが大統領選に勝利して、まずしなければならなかったことは、バラバラに解体された社会を一つにして、国民国家を形成することでした。そのために、社会から排除されていた貧困層に予算を割き、生活改善を行うことだったのです。
医療・教育改革
チャベス政権は、政権基盤である貧困層への福祉サービスの提供を精力的に行っています。その一つが無料の医療サービスです。
ベネズエラは、ミス・ワールドを輩出しているように、美容整形は高度に発展しています。つまり、一握りの大金持ちのための医療は高度に充実しているのですが、一般市民、特に貧困層対象の医療システムは、全く整備されていなかったようです。
教育改革も進行中で、教育基本法の改正が議論されている真っ最中でした。初等教育とともに、識字教育にも力を入れています。都市周辺スラム住民は字が読めない人も多いので、識字教育も重要です。こうした基礎教育であればあるほど、キューバの影響が強いようです。教科書も一部、キューバのものをそのまま使っているそうです。
石油と医療の交換
ベネズエラとキューバは、2003年から石油と医療の交換を行っています。お金を介さない物々交換で、石油をベネズエラが送り、キューバは医師を派遣しています。
病院建物や資機材は当然ベネズエラ側の負担ですが、医療スタッフ込みで医療システムを丸ごと持ち込む方式です。
キューバの医療は、「ホームドクター制」と呼ばれていますが、初期治療と高度医療を地域の中で組み合わせた医療システムを完成させています。
首都カラカスの地域診療所を訪問したのですが、ほとんどの診療科があり、集中治療室も完備した、「拠点病院」と呼べる充実ぶりでした。医師・看護士も豊富なので、患者一人一人に時間をかけて診察しています。
医科大も建設中で、年間6000人の医師を育成する計画です。しかし、現状では、無料診療所にベネズエラ人医師はいません。事務職も含めて、ほとんどキューバ人でした。
チャベス政権からすれば、これら諸政策は、社会福祉政策の充実でありつつ、政権基盤の強化でもある一石二鳥の政策です。
石油会社を政府と合弁化し、資金を調達しています。産油国の強みを生かしたものです。むろんキューバにとっても、政治的・経済的なメリットは大きいものがあります。