[政治] 堺市長戦 大阪府橋下知事介入のワケ
力を見せつけ湾岸開発へ
「堺市民は木原市長がいるかぎり幸せだ。堺市(大阪府)は、最も行財政改革が進んでいる。木原市長は自治体運営の神様だ」―昨年11月、木原市長(当時)の政治資金パーティーで行った橋下大阪府知事の挨拶だ。
現職市長をここまで褒め称えていた橋下知事は、今夏になって手のひらを返したように対立候補の竹山氏支援を打ち出した。その理由を報道陣から問われて橋下氏は、「僕は一神教ではない。もっと素晴らしい神様を見つけた」と切り返している。
コロコロ変わる言説は、府知事選立候補以来、橋下知事の一貫したスタイルとも言えるが、今回の堺市長選介入の目的とは何か?(編集部)
開発路線ばく進する橋下知事
「堺市民は変化を求めた」こう語るのは、野村孜子さんだ。野村さんは、知る権利ネットワーク元代表で、情報公開の視点から行政監視を続けてきた。橋下知事についても、府知事選への「立候補は2万%ない」と公言しながら、数日後に立候補したことに今も不信感を拭えない。
しかし、今回の市長選では、橋下知事が支援する竹山候補を支持した。理由は、政党相乗りへの批判だ。「『変えたい』との気持ちは、衆院選で『変えられる』という自信になった。橋下氏はこうした気分を上手く掴んだ」と評価する。
しかし、橋下府知事の市長選介入の目的が、本当に相乗り批判にあるのなら、昨年11月の現職賞賛はあり得ない。橋下氏自身、与党=自公推薦で知事選に勝利したのだ。
橋下知事の意図について、堺市議会の若手市議は次のように分析する。第一は、ベイエリア開発への布石である。堺市の財政状況は良好だ。米国の格付け会社ムーディーズによる市債の格付けは、 上から2番目の「Aa1」。信用力も、最高ランクの東京都に次ぐ「4」とされ、大阪、京都両市を1段階上回っている。「過去一貫した歳出削減への取り組み等が評価」された。
行財政改革を継続的におこなって捻出した財源の他、基金の取り崩し、起債等で2018年度までに計4600億円という豊富な普通建設事業費を抱えている。この金を、橋下知事が今後推進しようとしているベイエリア開発に動員したいという思惑である。
第二は、WTCへの府庁移転再提案を控え、府議会に力を誇示する目的である。府庁のWTC移転を再提案する橋下知事にとって、選挙戦圧勝は、この上ない力の誇示となった。
府議会が知事提案を再度否決するなら、知事辞職・再選挙で信任を取り付けた上で、2011年の統一地方選での逆襲が待っている。
ベイエリア開発とWTC府庁移転は、一体のものである。「防災上問題が大きい」と専門家からも指摘されながら、橋下知事がWTC府庁移転に固執するのは、WTCがベイエリア開発の導火線となるからであり、竹山新市長が公約に掲げた地下鉄 ・四つ橋線の延伸もベイエリア開発の一環だからである。「改革者」を演出する橋下知事は、実は旧態然としたハコモノ開発路線の推進者なのである。
機を見るに敏な扇動家
「竹山新市長は、8年前から市長への意欲を公言していた」と指摘するのは、先の若手堺市議だ。竹山新市長は、府幹部だが、木原元市長も府庁からの転出組で、先輩―後輩の関係である。
一部に語られる「橋下知事が自らの政治的影響力拡大を狙って竹山氏を送り込んだ」という筋書きは、どうやら間違いのようだ。
むしろ橋下氏は、総選挙で示された有権者の変化への期待を観てとり、今後の府政運営を見通して、力の誇示を試みた。竹山候補は子飼いで乗りやすい馬だったし、相乗り批判は、その格好の大義名分となった。
「勝負感は凄い」と語るのは、元門真市議・戸田ひさよし氏だ。「リスクを背負って勝負に出た」と評価する一方で、「機を見るに敏な政治手法は、長期的には周囲からの信頼を失い、力は弱まっていくだろう」と予想する。