[海外] オランダ/オランダ人の健康管理
──ユトレヒト大学研究員/小淵麻菜
日本の医者不足
行で、日本でも死者が出ており、かなりの騒ぎになっている。風邪の兆しがあれば、不安を抱く人も多いことだろう。このような特殊事態はさておき、一般的に日本で医者と患者の関係はどのように変化しているのだろう。
今日本では医者不足が深刻化している。出産を迎えた妊婦がいくつもの産院に断られてたらい回しにされ、手遅れになって死亡したニュースもあった。またオートバイ事故で緊急手術を要するにも関わらず、1時間も待たされて手遅れになり死亡に至った報告も見た。
医者不足の原因は、医者の絶対数が減少している事と、患者の数が増えた事の両面がある。これらはそれぞれ別の問題も抱えているが、相互に関連し合っている面は非常に大きい。
医療が発達した現代。それに伴って治る病気が増えた事を過信し、現代の私たちは健康と長寿にどん欲になり、医者に対して非常に自己本位な、高い要求をしているのではないか?と私は感じる。
オランダの家庭医
オランダでは各自が家庭医を持ち、何があってもまず家庭医を訪ねなければならない。しかしここで一番顕著に気がつくのは、医者達の患者に対するケアが非常に地道(?)なことである。
熱を出した子供を連れて行くと、医者は「できるだけ薬を飲ませるな」と言う。熱が上がってピークになっても、下がるまでなるべく自分の体力を使って回復させるという方針である。そもそも、風邪や筋肉痛であれ、皮膚がどうした等、たとえ些細な事でも、「医者へ行こう」と決心するからには患者にはそれなりの理由があるはずだ。しかし、十中八九は「処置なし」か、市販の薬を薦められるだけである。
以前体調が悪く、なかなか治らなかった時は逆に「あなたの直観では何が起こっていると思うか」と聞かれてしまった。私の方が彼に聞きたかったのだが、面食らいながら無理矢理返答すると、その「答え」の通りに私の目の前でコンピューターに打ち込み、こんな薬もありますと市販の薬の名前を教えてくれた。これがオランダの新しい臨床法らしい。ちなみにこの1回15分の相談で38ユーロ(5100円)である。
こんな経験が続いたので、私は余程の事がなければ医者には行かないことにした。もう少し丁寧な医者も中にはいるだろうが、「医者に頼らない、医者へ行かない」というのはオランダ人の一般的な態度となっている。
昨年は鳥インフルエンザが流行し、息子が3週間目に入っても高熱を繰り返したため、さすがに医者へ連れて行った。週末だったので、やむを得ず休日クリニックへ連れて行ったが、医者はまたもや、「どうしてもつらければ市販の解熱剤を飲め」と言い、さらに、「オランダでは国民の病院通いを極力抑える努力をしている」と、親切に、しかしはっきりと断言した。なるほど、どこの医者へ行っても、口裏を合わせたような言い方なのは、結局は「家で治せ」ということなのだ。
政府の医療対策
これは政府の医療対策方針に基づいている。
オランダでは、健康保険加入が義務であるが、勤め先が保険会社と提携しているのではなく、個人が保険に入る。入っていなければ、勤め先は給与支給手続きができない仕組みになっている。保険会社は様々あり、どれも私企業だが、比較的安価な保険から高額な保険まで多種多様で、一定の傷病は必ず保険の対象になる。その他に歯科医療、眼鏡やコンタクトレンズ、カイロプラクティック、心理医療など保険対象を増やせば、当然保険料は高くなる。
しかしどの保険会社でも最低の保険料は定額で、これは個人の健康状態に関わらず、また病歴があるという理由で保険加入を断ることは禁じられている。2006年から実施されている現行制度では、オランダ国民は1人月額およそ100ユーロ(13500円)ぐらいの保険料を支払っている。これを払えない家庭には国が補助する。また18歳以下の子供については無料である。医療費用の支払いは保険加入者が45%、雇用企業が50%、国が5%だが、移民家庭など低所得世帯への保障を考えると、国の負担は大きい。これがやみくもに全体の医療費が増大しないよう、医者に対して厳しい規律を守らせる理由である。