[コラム]迫共(さこともや)/新型インフルエンザと保育園
感染拡大防止と保育ニーズへの対応の困難なバランス
以前こちらでもお知らせしていた、新園「にじの木保育園」が開園して1ヵ月が過ぎた。案の定、新型インフルエンザに感染した園児が出て、職員も体調を崩したりと波乱の幕開けだった。うちの保育園は、0〜6歳までを3つの保育室で見る形式なのだが、新型の患者が出たことを報告すると保護者から「どの部屋ですか?」という質問が相次いだ。
さすがに「誰ですか?」という質問はないし、あったとしても答えるわけにはいかない。そもそも誰が誰にうつしたと確実に言うことはできないし、私たちが知らずに感染したまま活動して他人に伝染し、知らないまま治っている事だってあり得るだろう。
園では3つの保育室や廊下を行き来して活動しているので、どの部屋で患者が出たかを特定してもあまり意味がないのだが、自分のお子さんがいる部屋でないと分かれば、やはり保護者は安心する。
保育園は地域の教育施設の一部を借りて運営しているため、施設利用者にも分かるように園から感染者が出たことを掲示している。掲示を見て「保育園で出たんだって…」と話す利用者たちの様子は、どの部屋かを確認する園の保護者とダブって見える。
園の保護者と施設利用者は年齢層も生活地域もほとんど変わらないし、実は両方にまたがって利用されている人も多いのだが、「園で」と知ることで心理的な防壁ができて安心するのだろうか。
保育園として判断に迷うのは、兄弟で利用している場合、1人が新型にかかり、他方は症状がない場合だ。保護者が仕事を休めるなら問題はない。仕事が休めず、無症状の子だけでも預けたいという場合、保育園は断ることができないのだ。潜伏期間で症状がないだけかもしれないが、それはどの子にも言えることだ。兄弟が感染したから休ませる、というなら、全ての園児を検査しなければ平等ではなくなってしまう。しかも現在行われている簡易検査は、米疾病対策センター(CDC)の調査では「本来、陽性と判定されるべき検体のうち6割を陰性と判断してしまう場合がある」という(朝日新聞8月7日付)。こうなってしまうと全員がグレー判定だ。感染拡大を食い止めることは大事だが、「疑わしきは出席停止」となると、誰もが神経質にまわりの反応を伺う事態になりかねない。数ヵ月前に蔓延したマスク姿はそのことを象徴している。周囲を気遣うのは日本人の美徳かもしれないが、極端になると「犯人探し」をエスカレートさせてしまう。
園全体、また地域に感染が広がらないように、また保育士の健康にも留意しつつ、保護者家庭のニーズにも応えなければならない。大阪市では、よほどのことがない限り保育園の休園はしない方針だが、今秋以降、急速に感染が拡大した場合にはどうなってしまうのだろうか。例えば職員が半分休めば、機能面から見て休園せざるを得ない場合もある。
都市部で保育園の休園が発生するタイミングは、ほぼ同時期になるだろう。その時の経済損失もさることながら、庶民生活へのダメージにも備えておく必要がありそうだ。