更新日:2009/09/07(月)
[社会]遥矢当/信頼関係なしに介護の質は保てない
「信頼関係を壊すんですか」
「これまで現場が培ってきたお客様との信頼関係を壊すんですか!」─会議室に女性相談員の悲痛な声が響いた。議題は6月下旬に発覚した入居者の所持金紛失事件についてだ。
紛失した現金は38000円だった。不特定多数の人々が出入りする介護施設ではまず発見できない。もちろん、施設側が紛失した現金を補うが、今後どのような形で入居者の男性とその家族に謝罪するか、会社側と現場側で意見が割れてしまった。
男性の家族は事態をまだ知らない。信頼関係が破綻する瀬戸際にあった。失う物は現金か、信頼かという選択を施設として迫られたのだ。
その入居者は、実は2回目の入居だった。介護付有料老人ホームの費用負担に耐えかね、比較的安価な特別養護老人ホームへ転居したのだが、思うような生活が送れずに再入居したという経緯があった。これ以上新たに転居できる施設は見つからず、私の施設だけが頼みの綱だった。
会議の前日、私は男性の家族に連絡を取り、自宅に謝罪へ向おうとした。しかし、ホームを出る直前で相談員に「謝罪に行かないでくれ」と懇願された。事件が発覚してからスタッフ同士が不信感を抱き、「犯人探し」を繰り広げていた。相談員は私に、「罪のないスタッフの士気まで奪うのか」と説いた。側で私と相談員のやり取りを見ていたフロアの介護リーダーも話の中に加わった。リーダーも「悪いのは1人です。他の頑張っているスタッフの努力を見捨てたくはない。だから何としても犯人を見つけ出すべきだと思う」と意見をぶつけてきた。私は本社の担当を交え、再度この件について話し合うことにした。
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