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更新日:2009/07/23(木)

[コラム] 栗田隆子/忌野清志郎が、死んだ
──栗田隆子

訃報を知り、涙が止まらず

―忌野清志郎が、死んだ。

ショックだった。彼のファンという自覚はなかった。しかし訃報を知り、涙が止まらなくなった。彼の死にそれほどのショックを受けた自分自身にも驚いた。そのショックのままに、「青山ロックンロールショー」と呼ばれる彼の葬式へと足を運んだ。5時間並び、葬儀場についたときは、それこそ満月が夜空にかかっていた。

彼のCDをそんなに持っていたわけではない。しかしいまさら気づく。折々に彼の歌が頭に響いていたことを。高校を辞めた後「ぼくの好きな先生」という歌を知った。こんな先生がいたら、学校を辞めなかったかもしれない、だけど……と思いながら彼の歌を口ずさんでいた。そんなふうにごく自然に彼の歌は私の中に存在していた。あまりに自然なので彼が死ぬことを、ガンの再発を知っていたにもかかわらず、彼がいない社会を想像していなかったのだ。

しかし「売れてナンボ」の世界のなかで、何度も口ずさむだけで満足されてしまう状況は清志郎にとっては不幸なことでもあったろう。つまりは「CDが売れない」事態になるのだから。

清志郎のことを、取り付かれるように調べれば調べるほど、彼が悩んでいたのは「流通」のことだとわかってきた(さらには清志郎の毒舌っぷり、不遇時代を支えた女性達を〈便利女〉と呼ぶ女性差別っぷりも分かって面白かった。死を悼む気持ちは変わらないけれど、持ち上げる気がさらさらなくなるプロセスも味わい深かった)。

ここでいう「流通」とはまずはCDの流通の問題だ。核および原発反対を主張するRCサクセションの『COVERS』、君が代パンク─バージョンの入った『冬の十字架』、ライブハウスの儲け主義を皮肉った『夏の十字架』等々、CDの発売禁止がこれほどの騒ぎになるということは、彼がスターであったせいもあるが、この社会が「作り手」よりも「流通システム」に「力」を与えてしまっている証左なのだから。その「力」は「フリーターズフリー」をやっているなかで、ぶつかった問題そのものでもある。

でも「流通」の問題はそれだけではない。『冬の十字架』が発禁になった際に、取材に来るのはいわゆるジャーナリストや新聞記者ばかりで、「音楽関係者」が取材に来ないということに彼はかなり失望していたようだ。

彼は「バンドマン」として政治に関わろうとした。逆に言えばそれ以外のスタンスで政治に関わろうとは絶対にしなかった。そこに私はむしろ「可能性」を感じたいのだ。音楽を生業にしても政治に関心持たざるを得ないとか、ジャーナリストや政治家が素朴に音楽を愛する姿が見えてこないというのは、まさに人間をある一部だけで消費し、人々の力を奪ってゆくことにつながる。X JAPANが好きと話した小泉総理の人気の一因には、(これこそ怖いことだが)多面的な人間像を、自分自身に対してではなく誰かに期待する大衆の欲望もあったのかもしれない。「運動」入門一歩前に私が拘るのも、一人の人間の持つ「幅」を忘れないためでもある。

そう、例えばミュージシャンはそれぞれ細かくマーケティングされた分野の「音楽」だけを相手にし、ジャーナリストは「社会問題」と呼ばれるような事件だけを相手にする。それぞれ閉ざされた「業界」があって、その業界内で労働とお金がぐるぐると廻っている。それは真の流通がないということでもあるのだ。その狭まれたどれほどの恐ろしい略奪や虐殺や差別を私達は知らないでいることだろう。逆にどれほどの美しい存在や輝く場所を知らないでいることだろう。

彼が置いて行った(と私が思い込んでいる)「流通」の問題に、私は本を通してぶつかり、変えてゆきたい。それが私なりの彼への弔いと思っている。

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