[社会] ユニットケアの「理想」に苦しむ介護スタッフ
新興宗教セミナーのような研修
「もう こんな 介護はやめましょう。私たちの目指す介護じゃないです」──パワーポイントに映し出される介護施設やスタッフの映像を見せられながら、女性の研究者によって、まるで新興宗教のセミナーのような研修が続いていた。参加者の多くは目を見開いて深くうなずいている。それこそが、自分が求めてきた「理想の介護」と信じて疑わないのだ。
今や全国の介護施設を席巻する介護手法であるユニットケア(後述)に関する研修である。私も2008年からやむなく参加していた。研修は「認知症介護研究・東京センター」が主催し、厚生労働省が後援している。盛り上がる研修の中で、私の近くにいた参加者の一人は「また同じことの繰り返しか…」という表情で、深いため息を付いた。
ユニットケアの研修を何度も受けた私も、胸焼けがする思いがする。思わず席上から「今あなた達が無理やり押し付ける 理想 のおかげで、どれだけの介護スタッフが苦しんでいるのか、分かっているのか!」と叫びたくなった。
二の次にされる「共同生活」
ユニットケアとは、介護施設内で5〜9人程度の高齢者を一つのグループとして、高齢者一人一人に自分自身で出来ることを求め、出来るだけ自立した生活を営ませる介護の手法である。
一見、「ユニットケア」では高齢者の自由で自立した生活が保たれ、理想の介護が実現できているように見える。しかし、運営する側の介護施設は自由競争にさらされているから、常に収益の問題が付きまとう。介護度の高い=介護報酬の高い高齢者を集めないと運営が成り立たない。
だから施設内に集まる高齢者は、とてもじゃないが「共同生活」を営んでいるなどという意識が持てない、全てにおいて介護を必要とする高齢者ばかりが集まってしまう。極端に書くと、昨今多くの特別養護老人ホームでは、ターミナルケア(終末期医療)が必要な寝たきりの高齢者から認知症の高齢者までが、無理やり自分の部屋に押し込められている有様だ。
ユニットケアの居室は完全個室なので、挨拶をしてから一室一室居室を丁寧に訪れなければならず、以前の4人部屋生活より環境整備に膨大な時間がかかるようになった。だから、廊下やスタッフステーションに介護スタッフも不在になりがちだ。