[海外] キューバ/遥か遠い「国家の死滅」
所得再分配機能について
2回の連載報告を読んで頂いた方々から「褒めすぎ」「評価する面ばかりでリアリティがない」「日本の運動にも役立つような見聞はないのか?」との感想をもらった。「物足りなさ」を感じた読者も多いのではないかと思う。キューバ滞在中「アレ!」とか、「なんだこれは?」と思うこともあった。今回は、こうした疑問点を報告する。
「もう一つの世界」としてのキューバは、魅力が一杯だ。しかしこの魅力は、日本や米国でどんどん格差が広がり、生きづらくなっていることの対比でという面も大きい。資本主義の綻びが酷すぎるからだ。
さらに言えば、「社会保障制度が整っている」ことと、人の「幸福感」や「生きる充実感」は別物だ。人と人との関係や、自尊心・社会的役割への自負心は、国家によって保証されたりすべきものでもない。社会福祉制度が整った北欧で自殺者が多いという現実もある。
キューバを究極の「めざすべき社会」だとは思わない。キューバ社会も紆余曲折を経ながら変化してきたし、今も変化を遂げようとしている。それは、とりもなおさず問題を抱えているからに他ならない。これからも変化し続けるであろう期待も込めて、日本の変革を考える上で考えておいた方が良さそうな点に絞って報告する。(山田)
官僚国家?
首都ハバナでは、やたらと警察官の姿が目立った。数百bおきにバイクの傍らに佇む警察官が、交通整理をするでもなく、街を眺めている。時折、車やバイクを停めて免許証の確認をし、職務質問をしている。その数の多さに「失業対策」かとも思ったが、治安確保を目的としているのには違いない。外国人旅行者にとっては「安心」できる光景なのかもしれないが、ここに住むとなると話は別だ。
また「軍」はキューバ最大のエリート集団であると言われている。ソ連崩壊以降の経済危機の中、軍事予算が半分以下に削減される一方で、軍は独自の経済主体として経済活動へ直接関与するようになった。
例えば砂糖産業・観光産業における主要ポストから一般職員まで、退役および現役の軍人が採用されるようになった。軍参謀総長であったロサレス・デル・トロ中将(党政治局員)が1997年に砂糖産業大臣に就任したのはその象徴といえるだろう。
また、キューバの一大観光企業に成長したGAVIOTAグループは、軍をルーツとする企業の代表的な例だ。同グループは、軍関係者の保養施設を外国人向けのホテルに転換し、観光客用のタクシーなども保有している。キューバにおける主要企業トップは、現役・退役軍人で占められているという報告もある。
こうしたことから「キューバは官僚国家か?」と聞かれれば、間違いなく「イエス」である。上意下達のヒエラルキー組織である軍や警察が、キューバ社会を動かすキープレーヤーなのだ。さらに「政府」・「党」は政治のキープレーヤーであると共に、「経済」の主役にもなっている。