[反貧困] 障がい者/労働からの排除
働き方のいびつさ、排除の側から問い直す
いま、「労働」をめぐって様々な視点からの問題が提起されている。そのなかで「労働からの排除」という視点も重要だ。反貧困運動が「垣根を越えた協同」をスローガンに掲げ、労働運動が「まともな仕事をよこせ」と声を上げているなか、「そもそも『働けない』とされた人たちの問題はどうなるんだ」という声も障がい者らからあがっているからだ。
「労働からの排除」と言っても様々な領域の当事者がいる。女性・パート労働者や(旧来の)日雇い労働者ら、労働運動の主流である「男性・正社員・夫婦子ども2人の標準世帯」というモデルから外れた労働者をはじめ、そもそも労働基準法を適用されない、作業所などで働く障害者、外国人研修生たち。市民権すら持てないがアルミ缶や雑誌などを集めて収入を得る野宿者や、オーバーステイなどの外国人・難民申請者。さらに違法セックスワークなどもこの社会の現実であるし、家事労働など賃金で勘定するもの以外の社会的生産に光を当てる仕組みも必要だ。
排除の数だけ抑圧と嘆きがあり、しかもその構造は折り重なっている。私たち自身もまた、多くの場合、抑圧を加える側に立つのである。排除の現実をつかまえない限り、連帯も協同も表層的なものにとどまるだろう。今回、まず「働けない」とされ、差別などの社会的ハンデをも抱えている障がい者に注目した。
大阪市内の小規模作業所で働くAさんを訪ねた。(編集部 中桐)
ボーダーや障がい者の解雇
完全失業率が5年ぶりに5%を越え、失業者数は346万人を数える中、職場を解雇される障がい者が増えている。厚生労働省によると、08年度に全国で解雇された障がい者は2774人となり、前年度比82%の急増だ。なかでも景気後退が顕著となった秋以降は2.5倍の著しい増加となった。解雇理由を見ると「事業廃止」(23%)、「事業縮小」(64%)が多く、明らかに不況の影響による、派遣切りならぬ「障がい者切り」だ。
ちなみに、ハローワークにおける一般求人の就職率は26・7%(08年度通年)。09年1〜3月期では21・6%にまで低下している(09年5月、厚労省)。一般でもこれだけ厳しい求人環境で、ハンディをもつ障がい者はなおさらだ。企業からも「ただでさえ苦しいのに、障がい者を雇っていられない」「障がい者は真っ先に雇用調整の対象になる」との声がもれている。
だがAさんは「この数字は氷山の一角かもしれない」と言う。解雇をしたのにハローワークに届けをしていない企業もあるだろうし、さらに問題なのは「障がいのボーダーの人の存在」だという。障がい認定を受けていない、軽度の「障がい」をもつ労働者が解雇されても、この数字には表れない。
また、300万人の一般の失業者や派遣切りの被害にあった労働者に、この障がいの「ボーダーライン上の人が多いのではないか」とAさんは懸念する。釜ヶ崎労働者や野宿者の支援活動にも参加するAさんは、「公園や路上で出会う労働者の中に軽度の知的障がいや精神疾患をもつ人は少なくないと思います。彼らのほとんどは障がい認定を受けていないし、自分を『障がい者』と自認することに抵抗を感じる人も少なくないでしょう」と、ボーダーの存在を強調した。
「難病をもつ人の地域自立生活を確立する会」の山本創さんは、健全者と同じようには働けず、障がい認定も受けられない難病患者だ。京都市で開催された障がい者の所得保障を考えるシンポジウムでボーダーの存在を訴えた。「生活保護と障がい者年金の制度の狭間にすっぽりはまって、生きられない状態に追い込まれている。自殺者の中で多数は傷病者だ」
自立の強制
養護学校の高等科を卒業後の障がい者はどのような進路を歩むのか。厚労省の調査によると、15歳以上64歳以下の身体・知的・精神障がい者205万人のうち、就業している者は82・6万人(40%)、56・8%のが就労していない。なかでも精神障がい者は80・7%が就業していなかった(06年、『障害者就業実態調査』、厚生労働省)。
従来は、エレベーター式に卒業時点で施設や作業所が紹介されるのが一般的だった。Aさんの作業所も市内の養護学校で卒業生を紹介してもらっていた。ところがいま、「なるべく一般就労へ、というバイアスが効いていて、利用者の確保がたいへん」(Aさん)という。行政にとって補助金などの福祉コストがかかる作業所から、経営と競争の原理のもとで運営される一般企業に大きくシフトさせようという流れがある。そこには「自立の助長」というイデオロギーがかぶさっている。「訓練次第で就労できるということで、福祉から外そうとしている」(Aさん)。