[社会] 正社員過労・ウツの現実「神経的・精神的過密労働」
過剰なノルマ
国の「労働力調査」によると、管理職の数は234万人(90年)から170万人(07年)へと半減に近い減少を示している。過激な人員削減によって管理職の責任は増大し、入れ替わりの激しい派遣社員の管理も含め、残った正社員には、過剰なノルマが課せられた。
こうした全般的な状況があるにせよ、これを過労死・自殺の原因として直接結びつけるのは、いささか乱暴かもしれない。長時間労働という「量」の問題に加えて、仕事の内容や職場の人間関係という「質」の変化も見落とせない。
過労死の職業別労災認定件数とその比率を見てみると、「専門的・技術的職業従事者」の比率が高い。これに次ぐのが、管理的職業従事者・運輸・通信従業者だ。@技術職・A管理職・B運転手に過労死の犠牲者が多いことがわかる。
技術職の場合、納期が迫って長時間労働に追い込まれる他、管理職となって「部下の指導」という業務が加わり、で大きなストレスとなる場合もある。
また、管理職の過労については、チームノルマの達成が管理者のノルマに繋がるため、ノルマ達成が危ぶまれる事態で強い精神的・肉体的ストレスにつながる。この他にも、非正規社員に囲まれた正社員が、ギスギスした人間関係の中でストレスを抱え込んでいるという訴えも報告されている。
成果主義賃金と自己責任
「ホワイトカラーは裁量が比較的広いために、『自己責任意識』が強くなる傾向もある」と熊沢誠氏(研究会「職場の人権」代表)は指摘する。過剰なノルマを課された正社員が、上司や会社を批判するのではなく、ノルマを達成できない自分を責め、追い詰めていく。「自己責任論」を内面化しているためだ。「自己責任論」は、企業や国家の責任回避する新自由主義的言説の代表的なものだ。
成果主義賃金が自己責任意識を制度的に補強する。個人別の成果で選別し、目に見える賃金に反映させる。このため職場仲間相互の競争が煽られ、共同性が失われて「自分1人だけがしんどい」と追い込まれる。成果主義といっても客観的な評価基準があるわけではないので、果てしない努力が求められ、ますます職場の人間関係が緊張し精神的に追い詰められていく。
これについては、高度成長期の67年頃と、不況期の90年代を比較した調査結果がある。両時期とも労働者が感じる労働の強度・厳しさは変わらないのに、労働者の会社への帰属意識や忠誠心は、高度成長期の方が高い。
この理由について熊沢氏は、「高度成長期には、賃上げ・定期昇給が実施され労働者は予測可能性や安定感が高いために、しんどくても精神的安定を比較的保持できたが、90年代の不況は、労働強化に加えて、賃金低下・リストラの恐怖などの不安定要因がこれに加わったために、過労死・自殺が激増した」と分析している。