[政治] 誰のため?入管法改定
治安管理の全面展開で問われる「市民社会の連帯」
外国人の出入国管理と在留管理をセットにした「出入国管理及び難民認定法」(入管法)の大幅改定案の審議が今国会で始まろうとしている。「緊急事態だ」として日弁連や外国人支援団体等が、緊急の反対運動を呼びかけている。
「改定案」は、外国人労働者大量受け入れを想定し、IT技術を活用した徹底した就労・在留管理が目論まれている。この外国人管理システムは、一体的な国民管理システム構築への大きな一歩となる。さらに、外国人が所属する企業や学校などに対して、就労・就学状況を報告することを義務づけていることから、市民が外国人を監視・管理する役目を負わされる、トンでもない内容だ。
この他にも、在留外国人を「必要な外国人」「一般外国人労働者」、さらに「非正規滞在者」と様々に分類し、特に非正規滞在者を徹底してあぶり出し、放り出す工夫が盛り込まれている。また、日本で生まれ、永住資格を持つ永住外国人にも常時携帯義務を負わせるなど管理強化されている。差別・排外主義丸出しの「改定」案だ。(編集部・山田)
外国人「労働力」の選別・排除/相互監視とあぶり出し/日本人も監視対象
日本政府は今年3月、「住民基本台帳法」改正案、「外国人登録法」の廃止を含む「出入国管理及び難民認定法」改正案及び「入管特例法」改正案を閣議決定し、通常国会に上程した。衆院では連休中にも審議入りする可能性があり、緊急事態となっている。
上記3法の「改定案」の目的を明確にするには、その背景を探った方がよい。丹羽雅雄弁護士は3点を指摘する。第1は、移住労働者のより積極的な受け入れ政策の展開だ。規制改革会議(首相の諮問機関)等は、「人口減少化時代の労働力不足」を見越して、外国人労働者の受け入れ拡大を一貫して打ち出している(05年3月、規制改革・民間開放推進会議「第1次答申(追加答申)」など)。
しかし、受け入れ推進派が求めているのは共に暮らす「人」ではなく、良質で安い「労働力」だ。だから、区分し、整理し、管理する。必要な労働力だけを選択して受け入れ、そうでない、あるいはそうでなくなった労働力を効率的に見つけ出し、国境の外へ速やかに放り出さねばならないのである。
このためには、外国人Aが「今・何処で・どんな労働をしているのか?していないのか?」をリアルタイムに把握しておく必要がある。現在の外国人登録法ではそうした政策目的に対応できないため、これを廃止する。その上で、@IT技術を最大限活用し、A自治体の協力も義務づけ、おまけにB外国人を雇う企業や日本語学校にも報告を義務づけるよう入管法と住民基本台帳法を改定する。
2点目は、治安管理の強化だ。入管法制は本来、「外国人の公正な管理」を目的とするものだが「テロ対策」「外国人犯罪対策」として法改正を求められてきた経緯がある。「犯罪に強い社会」を謳い文句に「テロの未然防止に関する行動計画」(04年12月、国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部〔本部長・内閣官房長官〕)を策定するなど、準備を進めてきた。
特に非正規滞在者の排除のために、永住権者を含むすべての外国人に新登録証である「在留カード」を発行し、「不逞外国人」をあぶり出すシステムを整えようとしている。
外国人でIC管理システムを作り日本人にも適用
「改定」の背景として3点目に挙げられるのは、日本政府が推進している「電子政府構想―行政情報システムの最適化計画」(コンピュータネットワークやデータベース技術を利用した政府。IT革命以来の「e-Japan戦略」の一部)との連動だ。電子政府構想は、「行政の効率化やより一層の民意の反映・説明責任の実行」が謳われており、2011年の完成を目指しているが、住基ネットに見られるように、国民総背番号制による国民管理の効率化が最終目標だ。
今回の入管法制改定では、すべての外国人が在留カード番号で管理される。この在留カード番号をキーとして、外国人の個人情報のデータマッチングが可能となる。複数の行政機関で蓄積されてきた個人情報を統合し、一括管理できるというきわめて「効率的」な行政システムである。住基ネットでは、今のところ住基番号をキーとするデータマッチングは禁止されている(08年、住基ネット最高裁判決)。しかし今回、外国人には許されるという合理的根拠は全く示されていない。このシステムは国民総背番号制のモデルとなるだろう。
「外国人の問題だから、私とは無関係」と高を括ることはできない。マイノリティへの管理・統制は、必ずや多数派へ波及するだろう。自治体の「住基ネットシステム」と国の「社会保障カードシステム」との一体化がなし崩し的に進められており、今回の外国人管理システムとの結合が実現すると、巨大な国家情報管理体制が完成する。
法務省が集中管理
法務省はこれまでの出入国情報に加えて、「在留情報」も一括集中管理することになる。特に90年代以降に急増した「中長期在留者」=外国人労働者の在留管理を徹底しようとしている。
まず、16才以上の中長期在留者にICチップ付きの在留カードを交付し、カードの受領・常時携帯・提示義務を課す。名前・生年月日・顔写真・在留資格などの身分事項を地方入管局に届けさせ、居住地については市町村を経由して届けさせる。これらの変更があった場合は、14日以内に地方入管局に届けなければならない。この義務によって、継続的でリアルタイムな在留管理が可能となる。これらの情報をデータベースに蓄積することで「点から線への管理」が可能となる。
特別永住権者も例外ではない。不携帯は過料、受領拒否・提示拒否には刑事罰をもって報いる。この辺りには、かつての指紋押捺拒否・外登証常時携帯義務反対運動に見舞われた法務省側の「教訓」が生きているようだ。国連の自由権規約委員会は永住外国人に対する登録証の常時携帯義務と違反者への刑事罰適用を廃止するよう、93年、98年、08年の3度にわたって勧告をし、実施を迫っているにもかかわらずだ。
日本人・永住者の配偶者にも届け出義務が課されており、離婚・死別した場合も同様だ。DV被害者にとってこの届出義務は、生命の危険をも冒すものとなっている。
違反者は逮捕・在留資格の取り消しを含む罰則が待っているが、その罰則は極めて重く、例えば住居地変更の届出義務違反は、「住基法での過料」+「入管法での罰金」+「入管法での在留資格取り消し」となる。