[反貧困] 正社員・過労、ウツの現実/経団連幹事企業の悲惨な職場
私たちはどんな働き方を求めるのか?
この「生きづらい」世界に取って代わる「もう一つの世界」を自分たちの手で作り上げたい―こうした願いのもと、編集部は新年号特集において、各地で反貧困運動・フリーター労働運動などに取り組む諸氏に呼びかけて、労働・生活・福祉さらには、議論の進め方も含めて提言・批判を寄せて頂いた。
この企画に引き続き3月からは、同テーマで月1回の討論・学習会も編集部内外の有志によりスタートした。私たちが幸福に暮らせる社会の原則や必要条件を出し合い、共通認識や希望を創っていく。その過程そのものが希望となるようなプロジェクトでありたいと願っている。
しかし、「もう一つの世界」を構想するといっても、その範囲は広大で、深い。そこで編集部は、まず、「労働」に焦点を絞り、新たな働き方を模索・提案したいと考えている。
「お前はいつでも取り替え可能だ」と脅され、生き残るために隣の仲間と競争させられ、笑顔や感情さえも商品化されて搾り取られる。マニュアル化された単純労働の繰り返しで、技能も経験も蓄積されず、ただ年齢と焦りと自己嫌悪が蓄積されていく。そんな労働に取って代わる働き方の模索である。
それは、例えば仲間と呼べる同僚とゆったり学びながら、スキル・技を身につけて、工夫を重ねて熟達していける仕事という方向性だろう。
ただし「もう一つの働き方」を構想する上で、欠かせないのが、しっかりとした現状認識である。@非正規労働者の失業が差し迫った課題となっているが、コインの裏表となっているのが、A正社員の長時間労働、過労死・うつ・自殺の問題である。さらに、Bそもそも労働から排除されている野宿者・障がい者・女性からの視点は、働くことの意味や生きる意味をより深く考えさせる重要な視点だろう。
労働を巡る現状を先に示した3つの視点でまとめてみたい。第1回目は、過労死・うつ・自殺の問題とした。(編集部)
キャノン研究所200時間の残業
キヤノンの研究所「富士裾野リサーチパーク」(静岡県裾野市)に勤務していた男性社員(当時37歳)が自殺した(06年11月)のは、仕事による過労が原因だとして、沼津労働基準監督署が労災認定した(07年6月)。
遺族側代理人らが男性のパソコンの履歴を調べると、亡くなる直前の1カ月は263時間、それ以前も200時間近い残業があり、54日間連続して働いていたことも分かった。仕事のストレスや長時間労働の実態などから、労災が認められた。遺族側代理人の川人博弁護士は「日本経団連のトップが会長を務める企業で過労自殺が起きたのは深刻」と指摘した。
長時間労働によるウツ発症の例は、高槻市の精神科医H氏も紹介している。20代の男性Aさんは、ヨタヨタと診察室に入って来て、「寝られない、疲れがとれない、ふと死にたくなってしまう。よく居眠り運転をしてしまう」と医師に訴えた。仕事は、「○○さんマークの引越社」の営業配達だ。勤務実態を聞いて、「あきれると同時に激しい怒りを覚えた」という。
朝6時に家を出て、その日の仕事を終えるのが夜11〜12時、その時間から伝票整理。家に帰って食事、風呂を終えると午前2時、昨今は、それもしないで倒れ込むようにベットに入るという。さらに聞くと、残業代が全く払われておらず、そもそもタイムカードもキチンとしていないことなども判明したという。