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更新日:2009/04/12(日)

[コラム] イ・ウンジャ/日本政府の利害・目的は何か?

戦争前夜のミサイル発射

先日、朝鮮半島の平和に向けてのシンポジウムが大阪市内で開催された。講師は韓国の前政権下で働いておられた方。その講演内容をここで要約するつもりはない。ただ非常に印象的だったのは、講演者の北朝鮮に対する姿勢であった。それは一言で言って、「相手を理解することの大切さ」を伝えるものであった。過去の独裁政権下で徹底した「反共教育」を受けた世代の人であるにもかかわらず、その柔軟な視点に自分自身を省みる好機となった。

他者(北朝鮮)を理解する上で重要なことは、「西側」の価値観・ものさしで判断しきれないという前提である。さらに、そのものさしそのものを検証しなければ、北朝鮮の政治・外交政策、そしてその社会が持つ文化や常識を理解することはできない。他者との交流のための普遍的な原則とも言えるこのことが、なんとも斬新に、そして説得力のある響きとして私の中に入ってきた。なぜだろうか?

一つには、講演者の語りの中に表れる平和に対する静かな、しかし情熱的な態度によるものだった。朝鮮半島の統一と東北アジアの恒久的な平和を作り出そうとする熱い思いが伝わってくるのである。もう一つの理由は、「ミサイル発射」に対する異常なまでの報道が始まっていた時期だ、というタイミングによるものだろう。

今回の日本政府の対応の敏速さには驚くばかりだ。あたかも戦争前夜、戦闘用ミサイルが今にも日本列島に向けて発射されるかのようにメディアが報じる中での、自衛隊の出動の早さに、むしろきな臭いものを感じるのは私だけだろうか?

弾道ミサイルや核開発、そして拉致問題を通じて執拗に繰り返される北朝鮮バッシングの目的は何なのだろうか?日本の北朝鮮報道は尋常ではない。相手を理解するどころか、偏見と独断に満ちたイメージの増幅でしかない。「報道の行き過ぎ」だという次元では済まない、何か政治的な意図を感じざるを得ない。

水掛け論をするつもりはない。北朝鮮を擁護するつもりもない。擁護できるぐらいの北朝鮮についての正確な情報を持ち得ていないのだから。しかし、日本に住む私が日本の政治・社会の動向について皮膚感覚で感じることは、どうしてそこまで北朝鮮を敵視し、脅威の対象とするのか?という疑問だ。日本政府の本当の利害は何なのか、熟知する時がすでにきているのではないだろうか?

2000年の初の南北首脳会談、2002年の日朝首脳会談と、朝鮮半島をめぐる東北アジアの平和に向けた政治が一気に進むのではという期待がもたれた。しかしそれは一瞬でしかなかった。その後、日朝交渉は後退こそすれ一切進展していない。小泉元首相の北朝鮮訪問はなんだったのか?平壌宣言は何のために作成、同意したのか?国交正常化交渉どころか、「拉致問題が解決しないことには経済援助はおろか経済制裁も解除しない」という日本の頑なな態度は一体何をもたらすのか?

国際関係の秩序の均衡は「力の論理」によってはもたらされないことが、ブッシュ政権の退場とともに明らかになった。日本社会における北朝鮮敵視の論調は日本に住む人々にとっても何ら建設的なものを生むとは思えない。これまで作り上げられた北朝鮮に対するイメージを払拭することは難しいだろうが、「たとえ違和感や疑問があっても理解するために対話しよう、そのためにはどんな条件が必要なのか?」を考える世論の動きを作っていかなければならないと思う。それは北朝鮮を擁護するためではなく、北朝鮮を「仮想敵」として脅威をあおり続けた、自民党「独裁」の偽善を見極めるためでもある。

拉致事件などに対する日本政府の執拗さはどう考えても日本国、日本人のためにプラスになっていると思えない。北朝鮮脅威論の意図と背景を想定してみた。それは、@ならずものの国を脅威の槍玉にあげて、自衛隊の強化、つまり日本の再軍備化の口実になるからなのか?A北の核保有の宣伝をすることで、日本の核保有の道を切り開こうとしているのか、B憲法9条改正の正当化のためなのか?C日朝宣言の中に含れていた「植民地支配に対する謝罪」の具体化としての、戦後責任を取りたくないからなのか?D単純にメディアの怠慢と偏見によるものだろうか?

権力や既得権を持つ側にいる人々の意図は想定することしかできない。しかし、私たちにできることは「本当の脅威は何なのか?」を見極める知恵を生み出すことと、「力の論理」ではなく他者の歴史的・文化的背景を理解する努力から生まれる「対話の論理」の作り出すことだろう。そのことが、本来的に双方の「国民」にとっての利益にかなうものになっていくと思う。

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