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[海外] イスラエル／選挙結果を分析する

新しい左派政党の形成が必要だ

ギリシャ神話のタンタロスは罰で地獄の池に落とされた。水を飲もうとすれば水が遠のき、果実を掴もうとすれば果実が遠のいた。中道カディマ党のツピ・リヴニも同じ憂き目に遭った。個人的人気もあり、ガザ攻撃を支持し、ハマス制裁を呼びかけ、パレスチナ自治政府との交渉を演出したにもかかわらず、何故こんな結果になったのかと、悩んでいる。

しかし、「右派勝利」という選挙結果は、見かけほど決定的なものではない。選挙の争点は右派リクード党のネタニヤフとリヴニの首相席をめぐる争いであった。予想はネタニヤフ有利であったが、実際にはリヴニが僅差だが、勝った。右派有利に怯えた左派がリヴニ投票に回ったからだ。ネタニヤフは、和平交渉反対、占領地返還反対、入植地建設凍結反対、パレスチナ国家反対を象徴し、リヴニは、少なくとも口先では、「二国並存解決案」を表明していた。穏健派を選択したイスラエル国民の方が若干多いということである。

確かに最大の勝利者はアヴィグドール・リーベルマンのファシスト党であったことは否定できない。しかし、評論家たちが言うように、致命的な大変化とはならないだろう。リーベルマンの党は11議席から15席へと増加、議会第３勢力となったが、選挙前に宣言していた20議席獲得は実現しなかった。一方、労働党は19議席から13議席へと転落。ところで、25％以上を得票した党は一つもないので、状況は流動的である。いずれにせよ、リーベルマン現象は不吉だが、大慌てするほどのことではない。

右傾化促す人口構成の変化

しかし、選挙結果が伝えるメッセージはにしっかり留意する必要がある。イスラエル国民の右傾化である。ルクード党から極右までが65議席、カディマ党から左は55議席という分布。その原因は？

一つには、戦争（ガザ攻撃）直後の一時的現象と見ることができる。戦争は強い情緒的反応を引き起こす ― 民族主義的陶酔、敵への憎しみ、他者への恐怖、団結希求、報復欲求等々。これらが右派に益したのは事実だ。これは、パレスチナ人やアラブに戦争を仕掛けるとき、いつも左派が忘れてしまう教訓である。また、歴史過程の連続と見ることができる。シオニストとパレスチナ人の対立は、ますます広範で複雑になってきており、それが右派な有利に環境を提供しているともいえる。

そしてもう一つが人口要素である。右派ブロックに投票するのは、オリエンタル系ユダヤ人（大部分がリクードの票田）、宗教的ユダヤ人（主として原理主義的宗教党の票田）、ロシアからの移民（ほとんどがリーベルマンの票田）の３集団で、これはほぼ固定的。とりわけ出産率が高いのは、宗教的ユダヤ人とアラブ人。ユダヤ教徒はほぼ例外なく右派に投票する。今回の選挙では正統派ユダヤ教や国家宗教党は票を伸ばさなかったが、これは本来宗教党に投票するユダヤ教徒がリクードやリーベルマンのイスラエル・ベイティヌ党やもっと過激な国家統一党に投票したからだ。アラブ系はこれまでと同じようにユダヤ人の政党には投票しなかったのはもちろんで、アラブ系３党全体で１議席増であった。

カディマ党、労働党、メレツ（中道左派）の支持基盤は古典的体制派アシュケナージ（ヨーロッパ系ユダヤ人、比較的教養がある中産階級）であるが、彼らの人口比はずっと凋落傾向。そのうえ、若いアシュケナージは、世俗主義ファシズムを説くリーベルマンに惹かれ、彼の党に投票した。４議席増は彼らのおかげである。若いアシュケナージはアラブ人を嫌うが、宗教的ユダヤ人をも嫌っているのである。

メッセージは明白で、「中道・左派」が伝統的なエリート層から脱皮し、オリエンタル・ユダヤ人やロシア移民層の中に根を張らなければ、ますます凋落してゆくだろう。（２月14日　ウリ・アヴネリ）