[海外] チョムスキー、オバマ政権を語る
●「歴史的」か、それとも既成のパターンか?
今回の大統領選挙に関して、まず出てくる言葉は、「歴史的」という単語。黒人一家がホワイトハウス入りするのは、確かに歴史的であろう。
しかし、通常の尺度で見れば、戦後最悪の金融危機等々、ひどい状態の中で行なわれた選挙であったから、民主党は地すべり的勝利を収めたはずである。しかし、結果は僅差の勝利であった。もしも金融危機の到来が少し遅れていたならば、民主党の勝利はなかったかもしれない。これは何故なのか。
一つの説明は、どちらの党も国民世論を反映していなかったことだ。80%の国民が政府は国民のために動いているのでなく「少数の自己利益だけを求める権益集団」によって牛耳られていると思っている。しかも、政府が世論に耳を傾けようとしないと考えている国民は、驚くなかれ、94%もあった。多くの調査でも明らかなように、共和・民主の両党は、一般国民よりもはるかに右よりなのだ。
異常なまでに企業によって操られている社会では、民衆の意見を反映する政党は存続できないのかもしれない。トマス・ファーガソン(マサチューセッツ大学教授)が唱えた「政治の投資論」によると、政治というものは4年毎の選挙で国政支配のために最も多額の金を投資する階層の希望を反映する。たとえば、この60年間米国政治はILO(国際労働機関)の根本原則である結社の自由を批准していない。法律専門家はILO条約を「米国政治におけるタブー条約」と呼び、討議の場にも載せられたことがないと言う。
ILOには冷たいが、企業の独占価格設定権(いわゆる「知的財産権」)の履行と保護には熱心であるという対照性は、多くの人の眼に明らかである。この種の例は枚挙にいとまがない。
●白紙掲示板としての「チェンジ」
いくつかの点で選挙は既成パターンをたどった。マケイン陣営は選挙の争点はないと正直に宣言した。オバマの「希望」「変化」という選挙メッセージは、支持者がそれぞれ好きなことが書き込める白紙の掲示板のようなものである。彼の主張や見解に、思想と政策との関連はほとんど見られない。ペイリン副大統領候補付きのヘアー・ドレッサーの給金はマケインの対外政策アドバイザーの給金の2倍だとされたが、この選挙の真の性格を伝えたものといえよう。有権者は選挙運動が前面に押し出したイメージで選択する。(08年11月25日 http://www.zmag.org/znet/viewArticle/19749より)