[海外] 政商AIGの素顔
アメリカの海外膨張と共に成長し、金融恐慌と共に破綻を迎えたAIG
3月2日、NY株が7000jを割り込む急落の引き金となったのが、米保険大手AIGの巨額損失決算だった。AIGは、すでに米政府やFRB(連邦準備理事会)から総額1525億jの支援を受けており、今回の追加融資(300億j)を合わせて1825億j(約18兆円)という巨額の税金が政府を通して流れ込んだことになる。
同社は、日本でもアメリカンホームダイレクト、アリコジャパンなどのブランドで保険を販売している世界最大の保険会社だが、米政府・軍との密接な関係で巨大化していった。政商としてのAIGの横顔とは?(編集部)
米・情報戦略とAIG
AIGの礎を築いた創業者はコーネリアス・バンダー・スター。1919年、魔都と呼ばれ、欧米列強の租界が支配した上海で起業した。
スターは損害保険業を営む一方で、経済紙「上海イブニングポスト&マーキュリー」も経営。上海の暗黒街を仕切る秘密結社「青幇」を通して国民党・蒋介石と接点をもち、第2次大戦中はOSS(後のCIA)とともに対日戦略を立てたと言われる。彼は、米政府の意を受けた「スパイ」とも指摘されている。
2代目の会長となったモーリス・グリーンバーグは、地政学と経済を絡めた国家戦略を研究する「地経学研究所」を立ち上げたり、アジアの文化交流拠点となった「アジア・ソサエティ」を、ロックフェラー家の支えのもとで運営してきた。
AIGは75年に中国との関係を修復。79年の米中国交正常化に先立ち中国での営業を開始した。こうした、政治の動きと軌を一にした事業展開は、米国の情報活動の一端を担うものではないかとささやかれており、同様の指摘は現行のイラク侵略の際にもなされている。
軍需予算で成長
AIGは、世界各地に派遣されている米軍関連の保険(兵士の自動車保険等も含む)の大部分を受注している。
さらに、エネルギー関連大手のハリバートンや、その関連子会社DIIインダストリーズ、ケロッグ・ ブラウン&ルーツ(KBR)など民間軍事会社の保険も受注している。KBRは民間軍事会社の代表格で、イラク侵略でも米国防総省の最大の受注業者だ。
AIGは軍需関連予算で肥え太ってきたのだ。ベクテル・ハリバートンなどと共に、米国軍産複合体の一部を形成している「政商」と言っていい。
AIGは第2次大戦後、進駐軍(GHQ)と共に日本に上陸した。GHQの要請を受けて、駐留米軍資産の保険業務を一手に引き受けたのである。これがAIUだ。このため、米軍基地のある所にはAIUの支店・代理店がある。象徴的なことに、青森県内の唯一の支店は三沢基地の目と鼻の先の八戸にあり、三沢市の唯一の代理店は基地のゲート前にある。山口支店は岩国にあり、神奈川県には厚木支店もある。沖縄県には、那覇市と嘉手納基地のある沖縄市に支店がある。
昨年の金融危機に際し、証券大手のリーマン・ブラザーズは金融当局に見棄てられ経営破綻したが、AIGは緊急融資を容認されて救済された。リーマンとの違いは、軍との繋がりの強さ。万一破綻すれば、米国の安全保障に与える影響は少なくないという判断もあったといわれている。
政治家との強いつながり
全盛期には全世界に300部門、社員85000人を擁し、時価総額で銀行最大手のシティ・グループに次ぐ巨大金融資本としてその名をとどろかせるAIG。米経済誌『フォーブス』の『Forbes Global 2000』(世界優良企業2000社番付、07年3月)では、全業種通算で世界第6位に、保険部門では第1位にランキングされている。「本業」の保険業務の他に、航空機リースやデリバティブ(金融派生商品)取引、さらに年金や資産運用といった事業に進出し、今回の破綻に突き進んでいった。
上場時の取締役には前世界銀行総裁のバーバー・コナブル、元米通商代表のカーラ・ヒルズらそうそうたる名が並び、国際顧問にも元米国務長官ヘンリー・キッシンジャー、オリックス会長・宮内義彦、インドのタタ財閥の総帥らが名を連ねている。
2005年には、5億ドルの架空の損失引当金計上による粉飾決算=(脱税)、保険・証券法違反などの容疑で2代目会長=モーリス・グリーンバーグが起訴された。
同社は脱税でも抜きんでているのだ。バミューダ・ケイマンなどの租税回避地区に設立したペーパーカンパニーを使って利益を上手く消してしまう。この脱税行為は、政治との強いつながりによって守られているのである。