[社会] 介護施設でのインフルエンザ感染の実態
感染予防の責任を施設に押し付ける行政
「(水分を)飲みたくないんです…」私の顔を見るなり、入居者の女性が振り絞るように話しかけてきた。発熱した際には水分が普段以上に体内から奪われるので、水分補給が絶対だ。しかし、高齢者が発熱すると、水分を摂ろうとする体力までも奪われてしまい、水分を受け付けなくなる。そうなると脱水症状を引き起こし、生命に関わることになる。
こうした事情で、介護施設は入居者の発熱には敏感だ。私も現場のスタッフ共々、あの手この手で入所者の女性に水分を摂るように勧めた。
私の務める施設でも、この冬、インフルエンザの感染が発生してしまった。入居者に実害はなかったが、若い女性職員の不摂生ゆえのインフルエンザ発生で警戒態勢が強化されていった。私はシーズン前に施設の感染対策として、全職員及び出入り業者への予防接種とうがい・手洗いの徹底、感染が発生した場合の準備を重ねていった。それでも、感染は起こる。
苦虫を潰す思いだが、ここは割り切って次善の策を講ずるしかない。私自身好まないことではあったが、職員の外出制限や、入浴など共用設備を使用するサービスの中止など、最大限できる対策を講ずることにした。
「自宅にいた時と同じ生活」をコンセプトとした介護サービスを提供する施設が、爆発的に増えている。それ自体は良いことだが、「自宅にいた時と同じ生活」には、相応のリスクが付いて回る。その1つがインフルエンザだ。このためか、感染対策などが甘い無責任な施設も同じだけ増えている。
この場合、介護施設に入居した本人とその家族に対する自己責任よりは、運営側の「社会的立場の損失への懸念」と、「逃げの姿勢」にスポットが当たる。運営側も介護事業だけを運営している訳でもないので、企業全体の信用力=リスク回避能力が問われることを恐れるのだ。
ただ、いくら自宅と同じ生活とは言え、家族ではないので、一定の対策が必要となる。それがどこまで徹底できるかが問題である。