[コラム] 樋口篤三(日本労働ペンクラブ)/「アメリカの世紀」は終わった
先人の優れた実践に学ぼう! 100年に1回の大危機と社会の崩壊
20世紀世界の覇権国家アメリカは、イラク戦争の破綻と百年に一回といわれる金融危機、さらに長年世界一を誇った産業危機の連鎖に直面している。社会は音を立てて崩壊しつつあり、歴史的再編下にある。ヒスパニック系の増大、オバマの登場、多民族移民労働者が社会の多数者となったことなど、白人絶対主義が象徴した「アメリカの世紀」は終わった。
一世紀以上、中南米諸国は米国の植民地・従属国で、「北の巨人」米国が革命キューバを締め出し続けてきたが、今年は32ヵ国が結束し、米国だけを抜きに、キューバを入れた会議を成功させた(※編集部註)。世界史の大転換をなす1年であった。
日本は目下、米国の「同盟国」として右往左往中である。小泉・竹中路線は、都市と農村の格差を一層拡大させ、中間層を没落させ、外国人労働者をはじめ新たな極貧失業者を激増させた。公助を切り捨て、協助をなくした「自助すべて論」が跋扈し、企業は社会的責任を放り捨てた。
日本の代表的企業・トヨタですら急転直下して赤字となり、労働者の首切りが始まった。トヨタの奥田碩・前会長・経団連前会長が「従業員の首を切るなら、経営者がまず腹を切れ」と言ったのはつい昨今のこと。御手洗・現経団連会長もキヤノンで派遣労働者の首を切った。
全就労者の3人に1人に増えた非正規労働者は、かつての「臨時工・社外工・季節工」が「契約・派遣・期間工」と名を替えただけの底辺労働者。人権と労働条件は一層ひどくなってきた。日本語のできない外国人労働者、29歳の若者のホームレス化など、残酷な生活が毎夜の様にTVで放映されている。
このままだと資本主義と社会そのものが危ない、と保守右派の中曽根元首相さえ言う。「政治、経済、社会、あらゆる面においてモラルがもっと深く食い込んでこなければ、人類全体が危ない。そういう時代に入りつつある」。(「モラルなき拝金主義背景に」朝日新聞08・11・8)
東アジア─日本
いかなる社会をどうつくるのか?
その構想力、思想と方法は歴史の秀れた実践を踏まえて構想されるべきである。
どんなに優れていても、欧米(中ソ)型モデルの直輸入は、竹中にせよ左翼にせよすぐ破綻した。
中国、朝鮮、ベトナム等の共通文化圏、とくに中・朝から日本は儒教、仏教や建築、美術、民芸品等に大きな影響を受け、長年かかって日本化したものが多い。
そのうえで網野史学が大胆かつ新たに解明した東日本と西日本の大きな違いをはじめとした日本史の見直し、或いは当事者たちが自ら築いたアイヌ民族や琉球人の自然と人間、人間同士の相互扶助、沖縄の「非武の思想」と文化等の歴史と伝統、社会と文化には豊かな遺産が数多くある。その掘り起こしと新生は必須の課題であろう。