[コラム] 「人間の生存権」を保障する経済を
──ピープルズ・プラン研究所 小倉利丸
必要なのは成長の回復ではない
進行中の金融危機は実体経済へと波及し、第3世界も巻き込んで世界化している。ギリシャでの抗議活動にみられるように、リストラと失業の増大に対して、貧困層・若年層を中心とする抗議と抵抗は拡大している。
経済危機は、今後政治的な危機へ転化し、「オルタナティブへの模索か、ファシズムへの転落か」という選択を、私たちに迫ってくるだろう。
危機の克服の方法として、資本主義システムを前提とすれば「成長の回復」という選択肢しかない。しかし、それでいいのだろうか?資本主義にとって「成長」は「宿命」だ。資本主義は成長を止めないし、「もうこれ以上必要ない」という成長の終点があるわけではない。無限の成長なくして資本は利潤を確保できない。
しかし成長経済に戻ったとしても、結局私たちの衣食住を満たすような経済とはならず、貧困は解決されず地球温暖化を悪化させるだけだ。経済成長は貧困を解決しない。これは、急速な工業化と高度成長にもかかわらず深刻な貧困問題を引き起こした19世紀の産業革命の時代から繰り返し指摘されてきたことだ。
必要なのは成長ではないし、危機の克服は単なる雇用の確保で済まされてはならない。私たちは、搾取の根源である資本蓄積を阻止するための、新しい労働と経済の戦略を構想しなければならない。
意味ある経済活動の回復へ
経済活動の目的は、「人間の生存権を保障する」こと、すなわち衣食住を充足させることであって、資本の利潤獲得が第一の目的であってはならない。資本主義は、「資本の利潤動機に基づく活動という迂回路を通って人々の生存の条件を満たす」とされるが、このシステムが教科書どおりにうまく機能したことは歴史上一度もない。
私たちは、資本主義の成長や豊かさの幻想に何度も囚われては裏切られてきた。この愚かな間違いを繰り返すべきではない。経済活動を、利潤のためではなく、基本的な人権としての衣食住の充足のための活動として再評価し、多様な生き方と価値観を実現できる生存のための活動へと転換すべきだ。
金融危機の引き金となったサブプライムローン問題について、決して語られていないことがある。「そもそも住居とは、借金まみれにならなければ獲得できないようなものでいいのか?」という根本的な問いだ。
人々が心地好く住める住環境をもつことは基本的な人権であり、所得があろうがなかろうが保障されるべきことなのではないか?「居住」を商品として提供するシステムそのものを疑うべきだ。
サブプライムローン問題から教訓を汲み取るとすれば、「住」の商品化、土地の商品化を否定することだ。これが生存を保障する経済を生み出すための、重要な要素となるだろう。