[海外] ガザ/オバマ政権中東和平貢献への前提条件とは?
「アメリカン・デモクラシー」
イスラエルのガザ侵攻の直接的な背景は、2006年1月にパレスチナ人が自由選挙を実施して、ハマスに議会の多数派の地位を与えてしまったことにある。
自由選挙で間違った投票をするのは許されないというのが、アメリカの民主的な選挙についての考え方だ。民主主義は、アメリカが望む結果になるかぎりにおいて賛美されるが、アメリカが嫌う者に投票すると、ひどい結果になる。
この結果、イスラエルとアメリカは、ただちにパレスチナ人に対して厳しい制裁に踏み切り、資金の流れを止め、残虐行為を加速し、人々を飢餓に陥らせるという制裁を加えた。これがアメリカのいう「民主主義の促進」だ。
しかしこうしたことは、特段驚くべきことでもない。チリの自由選挙でアジェンデ政権が誕生した時(1970年)にアメリカは、クーデターをもって報い、その後の「構造調整プログラム」で、チリ経済を崩壊させた。
ニカラグアでサンディニスタ政権が成立(1979年)した際には、コントラを送り込んで内戦状態をつくり出し、徹底した経済制裁で政権打倒を試み続けた。その後、1990年の大統領選挙に際しアメリカは、サンディニスタ政権に投票するなら「さらに過酷な経済制裁」で脅迫し、アメリカが擁立したチャモロ候補の勝利に対しては、「民主主義の勝利」を歓迎してみせた。こうした「アメリカン・デモクラシー」の伝統は、19世紀末に遡る。
先日発足したオバマ政権が、こうした伝統あるアメリカ民主主義の原則を「チェンジ」することができるのか?
国務長官のヒラリー・クリントンは、イスラエルロビーと軍事産業からの献金額が民主党内で飛び抜けて多い。また大統領補佐官・ラーム・エマニュエルは、イスラエルとの2重国籍で、「フセインを排除できたからイラク戦争は当然」と公言する超タカ派であることは考慮しておく必要があろう。
停戦を破ったのはハマス?
イスラエルは最初から、全く停戦協定を守らなかった。停戦当初から、イスラエルはガザ地区内に勝手に「特別保安区域」を作って、自身の土地に入る農民たちを撃つ意思を表明し実行したのだ。これは、停戦協定違反であるだけでなく、国際法違犯だ。
一方ハマスは、パレスチナ人への銃撃事件等はあったが、イスラエルがガザに空襲を断行して、5名が殺され数人が負傷する11月4日までこの協定を遵守した。
ハマスの政治ビューローの長であるハリド・ミシャールは、次のように語っている。「(停戦協定で)イスラエルは、ガザへの検問所を解放し、停戦協定を西岸地区にまで拡大する約束だった。しかし彼らは、殺人的なガザ包囲を強化し、何度も繰り返して送電や送水を止めた。集団懲罰は停止されず加速された。暗殺や殺害も。停戦期間において、イスラエルの火器で30人のガザの人が殺され、封鎖の直接的影響として数百人の病人が死亡した。イスラエルは静かなひとときを楽しんだ。我々の民たちはそうではなかった」。
大手メディアの「公正」
イスラエルは、40年余りにわたって戦車で民家に砲撃を加え、選挙で選ばれたパレスチナ民族評議会議員を逮捕し、暗殺してきた。
このお返しにパレスチナ抵抗勢力がイスラエルに侵攻して、国土の半分をメチャメチャに破壊しても「やむを得ない」と理解を示す者はどこにもいない。今回も、ガザ地区で行政責任を負うハマスが、経済封鎖の強化と幹部暗殺に怒り、昨年12月19日、停戦協定の更新を拒否して、カッサムミサイルを発射すると、主流メディアは、一斉にこれを非難。イスラエルの現代兵器をフルに使った無差別殺戮を「どっちもどっち」だと相対化することで理解を示す。これが、メディアの「公正」だ。
片や小火器と手製ミサイルで武装するパレスチナ抵抗勢力。片や核兵器を保有し、世界でも有数の戦争遂行能力を保持しているイスラエル軍との争いは「戦争」などと呼べるものではない。しかも戦場は、常にパレスチナ領内であることも考えれば、「紛争」と呼ぶこと自体が占領の事実を隠すレトリックだ。