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更新日:2009/01/17(土)

小野俊彦/「『蟹光線祭』、人民の反撃を食らう」の巻

共鳴の準備として

フリーターユニオン福岡は素直に時流に乗れない天野邪気組合である。「格差、貧困、派遣切り、もう許せん、『蟹工船』の労働者のように立ち上がれ!」みたいなイケイケムードには、便乗するよりも茶々を入れなければ気が済まない。というわけで、fufの年末恒例乱暴狼藉シリーズは、12月23日&24日の2日かけて「『蟹工船』ブーム」を粉砕するべく討論集会&デモ行進に打って出ることに。24日のデモ行進についてもいろいろと書きたいことはあるのだが、ここでは紙幅の都合上、23日の集会の様子だけを紹介させていただく。

23日の討論集会(参加者およそ40名)は、『フリーターズフリー』などの編集委員であり批評家である大澤信亮さん、そしてフリーター全般労働組合の田野新一さんをゲストととして招き、いわゆる「蟹工船ブーム」と10・26ゆでダコ弾圧、すなわち2008年の世間を騒がせた2種類の海産物について徹底討議することにした。

大澤さんが集会で語った無数のことのひとつ、小さきものによって生かされた決定的な体験を記憶すること、というテーマは、『蟹工船』が体現せずにはいない「党的」な主体や運動の在り方を倫理的に批判する方法のヒントでもあるはずだ。そしてF労の田野さんは、同労組の執行委員として活躍しながら、大学院でプロレタリア文学を研究している研究者でもあり、戦前以来繰り返されてきた論点でもある「文学者/知識人」と「大衆/プロレタリア」との関係(矛盾や分離)をめぐる問いを、現在の自分の生活(学業)や労働(運動)との関わりにおいて訥々と語ってくれた。彼の語りの中にもまた、自分の中の小さきもの(ども)を単一の大きな観念で塗り込めることを許さない強さがあり、しばしば自らの労働や生活の現実に対する諦念にも似た感情と、すれすれのところに漂うように思われる彼の語りには、本物の強さへと至る何かが込められていると僕は思った。

「カニとタコ」というテーマ設定は当然にも思いつきの域を出ないものではあるが、僕たちの言論や運動が「党的」なものに囚われることの危険性と、路上において剥き出しの国家権力による弾圧が僕たちの運動に加えられる危険性が、僕たちの前にせめぎ上がっていることは現実である。そのような現実の危険を越えて足を踏み出せ、と言うのは簡単でも、実際に人を動かすことは簡単ではない。どんなとき、僕らの言葉と行為が人を動かすのだろうか。集会で交わされた取り留めもない言葉や想念、あるいはそれらが交換、振幅する場そのものが、決定的な共鳴を準備しているに違いない。

警戒せよ

質疑応答のため会場から質問を募ったとき、『蟹工船』と同年(1929年)に生まれたOさんの「今日は討論集会ちうて銘打っとるけん、どげなもんやろかち思て来てみたら、いかにもふーたんぬるかー、ち思って今まで聞きよりました」と開口一発粉砕されてしまった。「ふーたんぬるい」という博多弁は、要するに「気合いがはいってない」「ヌルい」ということだが、彼女の戦後の歴々たる運動史の誇示と現状に対する慨嘆とともに吐かれたこの言葉は、大澤さんは次のような応答を引き出した。「これだけ各場所で実践もしながら、論議を重ねている僕らに対して、『ヌルい』という一言でそれを切って捨てられるあなたの感性こそがヌルい」。

ともすればその場にいた僕らは往年の活動家である彼女の「喝」に対して「ゴメンナサイ」とひれ伏してしまいかねないところである。それに対して大澤さんは、やはり倫理ということを誰よりも厳しく問うているだけあって、自分が他者を批判するときには、自分の側にも相当の覚悟がいるということを貫き、だからこそ、他者からの批判に応接するときにも、他者に対して同じ倫理基準で切り返すことができるということを、僕たちの目の前で実践してくれた。僕はそう感じた。そしてそういう深みから出る言葉でなければ他者を動かす、したがって社会を変える力にはならない。

「世代の差を越えて連帯しよう」などという尤もらしいことだけが口をついて出るようでは絶対に何も生じ得ない。大澤さん、田野さんを招いて、ああでもない、こうでもないと話した集会の雰囲気は、確かに「討論集会」と銘打つほど勇ましいものではなかったかもしれないが、そのような淀みの中にこそ、明日声を出すためのエネルギーが蓄積されているのだ。通りのいい、分かりやすい話を警戒せよ。

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