[反貧困] 利益ため込み派遣斬り 金持ちばかりが生き残り
ホットライン
世界的な景気後退を背景に、国内でも解雇や内定取り消しなど雇用調整の嵐が激しさを増している。とりわけ「派遣切り」と言われる派遣労働者の雇い止めや解雇は、仕事と同時に住まいも奪われるケースが相次ぎ、労働者の生存そのものを危機に陥れている。
「行くところがなく、もうどうしていいかわからない」―この群馬県の50代の男性は、自動車のマフラーの製造工場に4年間、派遣されてきた。同僚が「明日で終わり」と次々に切られていくのを見送るなか、ついに「12月いっぱいで終わり」と告げられた。派遣会社との契約は3月まであるが、「もう仕事はない。自分で探せ」と言われ、寮も立ち退きを求められた。
11月29日、30日の2日間、全国ユニオンなどが開催した「派遣切りホットライン」には、全国11ヵ所の会場で472件の相談が寄せられた。「雇用と住まいを同時に奪われ、路頭に迷う派遣労働者からの相談が多数」という。
相談内容では「契約中途解除(解雇)」が219件、「契約更新拒絶(雇い止め)」が129件と大多数を占め、住居の問題(72件)や生活問題・生活保護の相談(39件)なども多かった(複数回答あり)。派遣労働者というと若年労働者をイメージしがちだが、40代が114件(24%)、50代が80件(17%)と中高年世代の相談が多い。
栃木県の50代の男性も自動車部品製造工場に4年間派遣されていたが、「12月で辞めてほしい」と告げられた。寮の家賃を天引きされた手取りは10万円以下。貯蓄は全くない。「市役所に電話したが『生活保護は無理』と言われた。もうパニック状態…」と絶望的な状況を語った。
「部品」扱いに怒り
「退職届とアパート撤去同意書にサインをさせられた」(50代男性)「新しい職場を探すにあたっての生活費もないのに寮から出て行くように言われた」(年代不詳男性)―こうした相談者の訴えからは「モラルも品格もない経営者が跳梁跋扈」(派遣ユニオン)している実態が明らかになっている。
派遣会社に今後の契約が更新されるのか確認を続けていた女性に「今月いっぱいで終了」と連絡が入ったのは、ケータイの留守電だったという。まるで廃棄される機械の部品のような扱いに唖然とする。
離職票に「自己都合」と記入するように迫る事例も目立った。雇用保険(失業給付)の受給のために提出する離職票に、退職理由を「自己都合」と記入するか「会社都合」とするかで給付額や期間が違ってくる。
11月末での打ち切りを11月27日に告げられた20代男性は、10万円の違約金を支払われたきりで、「「自己都合」にしないと離職票は発行しない」と言われた。製造業派遣で3年3ヵ月継続して働いた30代男性も、5年間働いた警備会社で、「来年の仕事はない。後進に譲れ」と言われた60代の労働者も、「自己都合」を強制された。経営責任の追及を免れたい身勝手なの経営者のために、セーフティネットとしての雇用保険すら虫食いにされようとしている。
一度に大量に切られるケースも相次いでいる。30人の派遣スタッフが全員契約解除された旅行代理店の系列会社や、200人の派遣が契約解除された工場などがある。派遣ユニオンでは今回の派遣切りの特徴を「いきなり」「強引」「大量」とまとめ、「今後、更に離職者が増加する」と警鐘を鳴らす。
居住対策に殺到
厚労省は先月末、全国調査の結果を公表し、非正規労働者3万67人(11月25日現在)が10月から来年3月までに失業する見通しを示した。派遣労働者が1万9775人(66%)、期間工などの有期契約は5787人(19%)、請負は3191人(11%)。産業別では製造業が2万8245人と94%を占めた。厚労省は「今後さらに大量離職の発生や新卒者の採用内定取り消しが懸念される」としている。
社会的な不安の高まりに押され、政府も対策に動き出した。雇用保険の適用基準の緩和、住居を失う労働者への雇用促進住宅への入居あっせん、失業者への低利貸し付けなどがそれだ。
12月15日から全国のハローワークで開始された派遣切り相談窓口では、初日の相談件数が1267件あったという。雇用促進住宅への入居に関する相談のほか、転居に必要な敷金など経費に関するものや、寮や住み込み付きの求人に関するものも多かった。だが雇用促進住宅は一週間のうちに満員となる自治体もあり、まだまだ増え続ける「ホームレス失業者」にはとても対応できない状況だ。