[反貧困] 人類史的な展望をオランダモデルから
インタビュー 田畑稔さん:大阪経済大学 (上)
はじめに
田畑稔さんはこの夏、アムステルダムでの短期留学を果たされた。オランダ訪問の直接の目的は、国際社会史研究所でマルクスの初期草稿を調査することだったが、反貧困運動の中で注目される「オランダモデル」についてお話をうかがった。2号にわたって掲載する。(編集部)
貧困と闘いながら歴史的展望を模索
ぼくらの世代は、自分たちの人生に関わるようなテーマをマルクスに言葉を借りながら考えてきました。これまで、自分たちの置かれている生活世界と思想のチャンネルをもう一度通し直さないとダメなんじゃないかということでやってきましたが、そうしながら、今日の変革論も「アソシエーション」というものを軸として問題提起していく。それが、ぼくの主とする思想的立場なんです。
社会主義は、ソヴィエト型社会主義がだんだんと官僚支配のシステムになって、最終的には経済システムとしても停滞してしまいましたし、中国の社会主義運動も、模索しながら世界資本主義の枠組みに収まっていきました。19世紀以来の長い歴史においてそういう経験をした後、社会主義にとってのどういう意味を再生産できるのかというところで、やはりアソシエーションの問題がクローズアップされてくると考えます。
社会民主主義はどうだったかというと、部分改良で一連の福祉政策を実現したり、成果は上げたんですけどね。それは労働者が闘い取ったという基本があると思うんです。
しかし結局、新自由主義が出てきて軒並みやらてしまった。福祉国家が競争力を削いで、「先進国病」となって活力を失うというので、サッチャー(元英首相、79〜90年)が出てきて社会民主主義と闘った。社民主義者もブレア(前英首相、97〜07年)のようにかなり新自由主義的なブレを持って登場した。その時に、オランダはちょっと違うコースを採ったわけです。それがいまオランダモデル、ダッチモデルといわれているものですね。
新自由主義というのは基本的には市場原理主義ですよね。市場競争の活力を活かすかたちで規制緩和をして、強い者はもっとがんばれるように、弱い者は尻に鞭打つようにと。そして財政破綻から抜け出るとか、国際競争力に活を入れるということで、大衆も支持したわけです。小泉(純一郎、元首相)もそうです。
我々として考えなければいけないと思うのは、新自由主義はけしからんというだけではダメで、じゃあ次にどういうことが可能なのか、全面的に新しい社会を作るということは無理にしても、どういうシステムを目指して闘わなければいけないのか、という部分ですね。もちろん、明日から労働者がどうやって生きていくかという問題がいちばん大事なことですけど。それと同時に、歴史の流れというものがありますから、新自由主義を跋扈させた結果として生じた新しい貧困と闘う中で、もうひとつの、オルタナティブなシステムを労働者といっしょに考えていかなければならない。それを考えていくにあたって、ダッチモデルというのはひとつ参考になるのではないか、ということですね。