[海外] アメリカ/現地ルポ 米大統領選とその後
ノースカロライナ州立大学ローリー校講師 植田恵子
閉塞した米社会の突破を託されたオバマ
選挙の翌日の水曜日は新聞が飛ぶように売れた。私立大学のカフェテリアには新聞が置いてあり、自由に持って行ってもいいので、大学生の娘に「ニューヨークタイムズ紙」を確保してくれるように頼んだのが、早起きしたのにもかかわらず、もう一部も残っていなかったそうだ。
新聞売場ではどこでも長い列ができ、50部も買う人もいたとか。11月5日付けの「ニューヨークタイムズ」はE-Bay(インターネット上のオークションサイト)で1500jの高値がついたと聞いて、オバマ人気の高さに驚いた。
11月4日、多くのアメリカ人がこの歴史的瞬間を体験しようと投票所に向かった。2004年の大統領選挙でも、私は学生たちに選挙に行くように言ったが、実際に投票した学生は10%足らずだった。それが今回はマケイン投票も多かったようだが、7〜8割もの学生が投票したらしい。選挙の前の週の金曜日は早期投票の最終日だった。大学の隣には投票所があり、夕方の冷たい雨の中、長蛇の列が出来ているのを見た。投票に何時間待つことやら。しかしそれすらも喜びだったのかもしれない。その中に私の学生の姿も2人見つけた。
異様に膨らむオバマへの期待
オバマ当選の夜は、私もオバマのきらきら光る目で語る真摯な演説を聞いて、涙が溢れて仕方がなかった。
あまりに黒人たちが泣く姿が放映されたせいか、白人たちからは「オバマに投票したのは黒人だからじゃない。彼の政策に賛同したのだ」というちょっと冷たい反応もあった。
しかし、奴隷制の時代、そして60年代の公民権運動を経ながら、長年虐げられ、力もなく、水面下の差別に苦しむ生活を送って来たアフリカンアメリカンにとって、黒人大統領の誕生は歴史的な日であったのは言うまでもない。
「オペラ・ウィンフリー・ショー」という人気トーク番組がある。選挙後、1週間のゲストは、毎回黒人の有名人で、彼らが選挙の夜をどう過ごしたか、どう思ったかが中心だった。そこには、虐待されてきた歴史と希望、興奮、オバマに対する過剰なまでの期待が感じられた。
オバマフィーバーの一つの例として、1月の大統領就任式のチケットをどうやって手に入れるかが大きなニュースになっている。選挙後、「チケットがほしいコール」が共和党も含め、議員たちのもとには1000本以上来ているそうだ。ワシントンDCのホテルはすべて予約済み。安いホテルで1泊1400j、セキュリティーのしっかりしたスイートは1泊1万5千ドル、しかも最低5泊が条件とか。まだ誰にもチケットは配布されていないというのに。
経済成長では問題は解決しない
しかし11月6日以降の新聞はシビアな論調に変わった。これから彼が歩む道がいかに困難なものであるか、景気回復、膨大な借金処理、保険、外交問題、エネルギー、環境問題が大きな焦点になっている。
日本の報道で気になったことがある。朝日新聞に、オバマが「自分のような雑種の犬をホワイトハウスに連れて行きたい」と、人種差別反対の発言をした主旨の記事が載った。が、こちらでは彼のあの発言に対してそのような受け取り方は全くなかった。娘がアレルギーだから、捨て犬のシェルターから犬を探して来たいけれども、シェルターの犬は自分のような混血だから、どうかな、と言って笑いを誘ったのだ。何よりも、純血種の高級犬ではなく、彼が「シェルターから」と言った言葉が庶民に非常に温かく受け止められたと思う。
私と同じくアメリカ在住の友人Hさんから、オバマ当選直後に以下のようなメールを受け取ったので、分かち合いたいと思う。