[海外] オランダ/年齢差別〜年齢制限のない雇用
──ユトレヒト大学研究員 小淵麻菜
日本の今後にどう生かせるか?
私のある友人は、アムステルダム大学の博士課程で今博士論文を執筆中だが、彼は来月60歳になる。
博士課程に入るのは、オランダでは雇用扱いになる。大学を通して国から毎月生活費が支給され、授業料はない。これは日本ではまだ極めて新しい考え方だが、それ以上に、彼の例から「年齢制限が存在しない」という事実が明らかである。
彼は56歳で博士課程に入った。応募時の面接で「君のような年齢で博士号をとってそれからどうするつもりなんだい?」と聞かれ、「この研究をする事は、自分に今大切だ。この分野に貢献する研究をやれるし、継続できる。その意志は固い」と言って採用された。彼の情熱と実力を基準に大学は彼を採用した。
また、オランダ政府は、人文社会系に該当するものだけでも数種類、国の予算から研究費を歳出しているが、この応募に年齢制限はない。例えばそのひとつは、博士課程を終わった時点から3年以上たっている者に応募資格があり、大学院生の雇用を仮定した5年間の研究プランを提出し、5年間の研究費(書籍、コンピューター、学会旅費など)と本人並びに院生への報酬の支給を要請するものだ。もちろん競争は激しいが、年齢制限がない上、必ずしもどこかの教育研究機関に雇用されていなくてもよいので、応募する時点で無職であっても応募でき、採用されれば5年の雇用を意味する。
ヨーロッパの雇用 年齢差別と改善案
しかし、学問分野を例外とすると、実は労働上の年齢差別はヨーロッパ各国で大きな問題になっている。
オランダでは2004年に年齢差別禁止法が施行開始されているが、2年後の06年においても、不平等に関する694件の不服申し立てのうち、219件が年齢差別によるものであり、また、無職者(求職者)の60%が40歳以上というレポートがある。
ドイツで59%、スペインで54%の労働者が雇用時における年齢差別を感じており、ヨーロッパ全体では46%という調査結果が報告されている。
また、イギリスでは06年の「年齢差別禁止法」施行開始から1年を経て労働者2000人を対象にした調査で、なお5分の1が「年齢差別を感じている」事が判明している。
企業側の、新卒と中高年以上の人間の「区別」は、イメージ的で、偏見に他ならない。「若くて独身なら労働時間の融通が利く一方、中高年ならより家族の拘束がある」とか、「中高年は仕事に必要な技術を学ぶのに時間がかかる」とか、「若者より生産性が劣る」とか、「中高年には原則的に高い報酬を要求される」とか、また「年下の上司、年上の部下の不自然さが人間関係の問題を起こす」(??)等である。もちろん、このような既成概念を基に改善に踏み切らない人事部の責任者たちは、おそらく十中八九、中高年層であるから、非常に勝手な見方であるとしか言えない。
そこでイギリスでは、年齢情報を全く記載しない履歴書の書式が作られた。生年月日欄がないだけではなく、教育背景や過去の就職状況なども、年代的情報を一切記載しないような書式である。
これによって、人事担当者が純粋に各応募者の仕事に対する情熱や実力による適合性だけで採用を決定する過程をシステム化することを、雇用における年齢問題協議委員会は期待している。