[海外] アメリカ/公的保険導入と市場介入策は、保険会社の反発招く?
──ノースキャロライナ州立大学ローリー校講師 植田恵子
オバマ保険案:企業供給型保険を中心とした保険案
オバマが提唱する保険案は、日本のような公的国民皆保険ではない。その骨子は、@企業の従業員に対する包括健康保険提供の義務化、A保険を提供しない企業に対して罰税行使、B罰税を資金にして、無保険者の保険をカバーする新しい公的保険の設立、C私営保険の規制、D子供の保険加入の義務化からなる(今回も1j=100円として数字を見てほしい)。
企業供給保険を維持しようとするのには、2つの理由がある。第1に、現在従業員とその家族を含め、1億5800万人が企業供給保険に加入している。保険費の高騰に不満はあるものの、高い商業保険と比較すると、企業供給保険はありがたい限りだ。だから、保険制度改正で、企業供給保険が取り上げられれば、強い反発が予想される。
第2に、現在雇用者は4000億j(=40兆円)の保険費を負担している。公的保険を作っても、この金額を政府が肩代わりするのは財源的に見て無理だ。オバマは企業保険を供給しない会社に対し、「罰税を課す」とは言っているが、実際は零細中小企業には適応しない方針だ。むしろ従業員10人以下の会社に対しては、減税措置により、できるだけ会社が保険を供給出来るように援助すると言う。
無保険者や保険の出せない零細企業、自営業者には以下のような2つの選択肢がある。1つはメディケア(65歳以上の老齢者公的医療保険)をモデルにした新しい公的保険への加入で、もう1つは商業保険への加入である。
両者が市場で平等に競争できるよう、また弱い立場にある加入者を保護するために、新しい規則や基準を設けるという。
例えば、保険会社に対しては、病歴者に高額保険料を課したり、医療費がかさむからと、契約途中で患者を保険から蹴り出したりさせないよう法律を定める。また保険料は人頭税式ではなく、低所得者に対しては収入に応じたスライド制を導入し、どちらの保険でも経済的負担なしにできるだけ多くの人が保険に加入できるようにする、などだ。
政府が保険市場に介入し、厳しい法律を施行することで、既病者、障がい者、高齢者が平等に保険に加入できるようになる。また、今まで企業保険がなく商業保険の複雑な仕組みの中で、無駄に高い保険費を払わされてきた人々も救われる。政府が新しく公的保険を作るとなれば、利益追求、宣伝広告、交渉手続き等の費用が不要で、コスト削減に繋がり、市場にも社会にも安定感が出てくるだろう。