[海外] オランダ/進路別教育の弊害
──ユトレヒト大学研究員 小淵麻菜
はじめに
混乱を続ける日本の教育制度だが、「教育の多様性を実現した」として紹介されるなど、オランダの教育制度をひとつのモデルととらえる向きもある。「教育の柔軟さと多様性が一人ひとりの子どもの自主性を育み、子どもは将来設計に向けた動機付けを自発的に得られる」という。オランダで学生や若者と接する小淵さんの目にはどのように映っているだろうか。本当に「理想的な教育」として成り立っているのだろうか。(編集部)
オランダの進路別教育
私が小さい頃、当時のソ連では少数精鋭教育を行っていると聞いていた。これはヨーロッパ、ロシアの広範囲で長く行われて来た教育制度なのであろう。現在ここオランダでもそれに類する進路別教育が行われている。満4歳の誕生日から小学校に通う事ができ、最初の2年(グループ1及び2)は幼稚園にあたり、オランダ語の潤滑な使用並びに社会性を培う。グループ3からグループ8までの6年間は日本の小学校にあたり、主としてオランダ語と計算、その他ある程度のオランダ及び世界の地理社会等の科目指導が行われる。ここまで、基礎教育期間の教育内容は学校間で大差はない。
しかし、グループ8の後半(12歳時)にいわゆる「Citoテスト」が児童全員に課され、どのタイプの中等教育機関に進学するかが決まり分化する。これが進路別教育と呼ぶべき所以である。中等教育機関は、成績順に、医科・高度技術系・純粋学問の追究を目的とする大学進学コース、小中等教育の教職や、歯科技師等の専門職を目指す高等専門コース、そして建築土木工・秘書や各種の職人養成のための職業学校コースに分化しており、教育内容及び就学年数が異なる。中学1年終了時点でこれを確定するよう2つのコースを併設する学校も多く、もう1年必修科目を履修する事により一段階上への進路変更も可能だ。
このような進路別教育では、生徒が大体同じ学力レベルであるから、その利点はいくつか簡単に挙げられる。まず生徒にとっては、自分が他者と変わらぬ成績である事は心理的に他と仲間意識を持てる要素となり、必要以上のプレッシャーを感じずにすむ他、勉強以外の趣味を通して仲の良い友達を作りやすい。親も、自分の子どもが他と大体同等である事は安心材料になる。むろん教師側にとっても授業が行いやすい。国家的な観点からしても、国民が中学進学時点から将来社会の中でどのような役割を担うかを意識して学習を進めるというしくみは、社会的に有用な人材を養うという意味で非常に効率的な人材教育制度である。
しかし、不利な側面にも注意を向けたい。