[社会] 金銭的な不安を解消しない介護保険制度
「火事か?」「いや、また独りで大騒ぎしているんだ!」。人々が寝静まった午前2時、大音量のサイレンが鳴り響く。私が住んでいる豊島区の下宿の隣にあるアパートへ消防隊が駆けつけてきた。通報したのは、現在たった1人しかいないアパートで暮らす独居女性高齢者・Aさんだ。
アパートを見渡すと火災どころか煙一つ出ておらず、火災の通報はまったくの誤報だったので一安心する。しかし、何度となくこうした火災通報が続いたため、周辺住民も不満を募らせていた。Aさんは「ガス漏れが原因で火災が発生した」と通報するのだが、ガス火災となると消防隊も規模が大きく、騒ぎが必要以上に大きくなってしまう。
Aさんは、私が住む下宿の大家が経営するアパートに暮らしているが、大家夫妻が高齢のためアパートを手放すことになった。そこで大家はAさんにも立ち退きを迫っていたが、Aさんは、「新たに賃貸住宅を契約するのが困難であること」と居住権を楯に、他の入居者が立ち退いたアパートに、半年以上独りで暮らしていた。
Aさんは生活保護も受給しており、不安が大きい生活を送っていた。ところが、普段の生活は実に穏やかで、朝のゴミ出しの時など、気さくに挨拶をしたりする。Aさんは、今の生活を奪おうとする大家夫妻へ当てつけとして、消防署への誤報を繰り返しているのだ。
もっとも、大家夫妻はAさんに次の住処などを提案し、なるべく金銭的な負担のないような立ち退きを提案していたが、Aさんは受け入れなかった。
Aさんは消防隊が駆けつけると「ガス臭いんです!確かにガス臭いんです」と、自分の部屋を指差して訴えた。ところが化学消防隊は、今回もまた女性の誤報であることを確認していた。誤報であることを確認すると、消防隊はすぐ引き上げた。
そこで、残された住民と、民生委員、そして所轄の目白警察が車座になって話し合いを始めた。話し合いは目白警察の警部だという中年男が進めていく。男は「今回もばあちゃん、やっちゃったじゃない?警察としても保護するわけにはいかないから。精神障害の人みたいにするわけにもいかないしねぇ。とにかく説得しなきゃ駄目だよ」と、Aさんの気持ちや不安を省みることなどない発言を続けた。住民の不安を解決するかのような警部の中身のない発言に、住民は渋々頷くばかりであった。(遥矢当)