[社会] 刑務所に送り込まれる知的障がい者
社会的差別・貧困が生み出す悪循環
年間2万5千人〜3万2千人の新受刑者の内、2割が中度・重度の「知的障害者」(IQ70未満)であることをご存じだろうか?法務省発行の「矯正統計年報」から「受刑者の知能検査や精神診断の結果」を表にして示した。
刑務所に送り込まれた知的障がい者の中には、警察や司法関係者が知的障害について無理解なために(あるいは障害を利用して逮捕・起訴し)、本人は裁判の意味も理解できないままに孤立無援で裁判が進行。有罪判決を受けて刑務所行きというケースも少なからずある。
冤罪事件=宇都宮事件
そうした冤罪の典型が宇都宮事件だ。「喋れない・書けない・話が通じない」重度の知的障害者が、その障害ゆえに強盗犯に仕立て上げられた。
事件の概要は次のようなものだ。重度の知的障害をもつ男性(53才、以下Aさんという)は、05年8月に暴行容疑で逮捕された。自転車に乗ったAさんは女子中学生たちと通りすがりに接触し、「くそじじい!」と怒鳴られたことでカッとなって、女子中学生の首のところを左手でわしづかみにしたという軽微な暴行罪容疑。通常なら被害者に謝罪して釈放という事件だ。
ところが、管内でその年の4月と5月におこった2件の強盗事件の捜査に行き詰まり、「犯人逮捕」に焦っていた宇都宮東署は、強盗事件の容疑者としてAさんを取調べ、Aさんが自供したとして再逮捕。詳細な自白調書が作成されて起訴された。
「自白した」とされる強盗事件とは、@洋菓子店の閉店時刻を見はからって包丁をもって押し入り、店員2名に包丁を突きつけて、現金(13万3千円)を奪い、逃走したという事件。そしてA閉店していたスーパー店舗内に入り、店員2名に包丁を突きつけて、現金(6千円)を奪ったうえで、逃走を容易にするため店員2名を店舗の奥の部屋に行かせ電気を消し、出入口の鍵を外からかけて逃走したという事件だ。
裁判は第1回目で被告人も弁護人も起訴事実を認め、第2回公判で検察官が懲役7年を求刑。第3回公判で判決言い渡しとなっていた。ところが、判決直前にAさんが否認。その直後に、2件の強盗の真犯人がみつかり、Aさんの無実が判明した。