[海外] パレスチナ/占領の常態化ではなく平等な立場での一国解決策を
──国際中東メディア・センター(IMEMC)アーロン・レイコフ
はじめに
5月21〜23日、ベツレヘム(ヨルダン川西岸)で、パレスチナをグローバル経済の一部に統合する狙いで、「パレスチナ投資会議」(PIC)が開催され、アッバス議長をはじめとするパレスチナ人、イスラエル人、世界の投資家、各国政府代表等1200人が参加した。PICでは20億ドル相当のプロジェクトが提起され、署名もされたが、パレスチナの不法占領はまったく議論にならなかった。「PICが西岸地区やガザ回廊に経済機会をもたらす」という楽天的意見もあるが、「PICはイスラエルのアパルトヘイト政策を常態化する道具として使われる」と批判する人々もいる。
IMEMC(国際中東メディア・センター)のアーロン・レイコフ(カナダ人独立ジャーナリスト)は、《反アパルトヘイト壁》草の根運動(www.stopthewall.org)のオルガナイザー、ダゥード・ハムーデに、PICに関して電話インタビューした。ダゥードの運動体は先日「開発か現状常態化か?西岸地区開発方法・計画批判」と題するレポートを出した。(訳者:脇浜義明)
偽りの持続可能性
アーロン…反壁運動はPICを批判する声明と「開発か現状常態化か」というレポートを出していますね。あの会議について話してください。
ダゥード…会議の発想そのものには反対ではないのです。パレスチナ社会は、経済危機から脱出するために、あの種の会議が必要です。問題は、会議の持ち方、提案されるプロジェクトの内容、参加人物です。今回の会議は、パレスチナ社会の主要な組織やNGOや政治家や活動家などへの相談が一切ないまま、一握りのビジネスマンや政治家によって決められました。これは、パレスチナ社会の将来を一握りの人々の発想の中に封じ込めようとするものです。
会議で発表されたプロジェクトも問題があります。ほとんどが1990年代に提起されたものばかりで、その後状況が大きく変化しているのに、それに触れていません。例えばヨルダン渓谷の巨大農業プロジェクトですが、現在分離壁が水資源の82%をイスラエル領に併合している現実に触れていません。会議の場所ベツレヘムも、この3年間水不足で、特に昨冬の旱魃で今夏は30年来の水不足が予測されます。そういう状況を無視して農業プロジェクトを話しているのです。壁が水資源を奪い、占領当局が地下水やヨルダン川の水の利用を禁じているため、日常生活の水さえ不足しているのに(!)、食糧危機に対して農業プロジェクトを立ち上げるのだろうが、それは水危機をますますひどくするだけです。パレスチナ人が直面する問題を解決する包括的な計画を立てようとしていません。
アーロン…PICでは20億ドルの投資が論議されました。その大部分は観光投資です。反壁運動は、「ベツレヘムの観光プロジェクトをアパルトヘイト壁を正当化するものだ」と批判していますね。
ダゥード…パレスチナ全体への出入りを管理しているのはイスラエルです。オスロー合意後、何度も交渉がありましたが、イスラエルは出入管理権では譲歩しませんでした。
そういう中でもパレスチナ人観光業者は何とか商売をし、観光客や巡礼者をベツレヘムやエルサレムのホテルに宿泊させることができていました。そのため観光客や巡礼者は占領下パレスチナ人の苦境を実際に見、占領の過酷さを体験しました。イスラエル政府と業者はそれが気に入らず、できれば現実を見せたくなかったのですが、一方で観光利益には魅力がありました。2年後、ベツレヘム巡礼者は400万人に増える見通しです。
しかし、ベツレヘムの現状は、北側は壁で閉じられ、西側では壁建設中。東側と南側では建設予定で、いずれ周囲を壁で囲まれてしまいます。
かつてパレスチナの観光収入の52%を担っていたエルサレムは、壁によって完全にイスラエル領へ併合されています。壁によってベツレヘムとエルサレムの観光業は完全破壊されているのです。
アナポリス会議でもPICでも巡礼観光の国際共同プロジェクトが話されましたが、巡礼者は数時間ベツレヘムの教会などを見に行くけれど、宿泊はイスラエル内です。壁建設が完成すると、イスラエル当局の許可を申請してまでベツレヘムを訪れる人がいるでしょうか?現にイスラエル当局の許可がなければPICに出席できません。ガザ地区の観光業者はベツレヘムに入れないので、会議に出席できません。
パレスチナ自治政府が観光プロジェクト促進のために唱えているのは、軍事検問所を美化し、観光客にチョコレートやカードを配るなりして、「親しみのある検問所にしよう」ということなんです!それにパレスチナ内部の巡礼は全く無視されています。検問所のためジェニン在住のキリスト教徒はベツレヘムの宗教行事に参加できません。本来PICでは観光発展のために検問所廃止を話し合うべきなのに、国内の巡礼を無視して外国人観光や巡礼のことだけを話しているのです。