[海外] 足立正生/レバノン危機を作る米・中東政策の後退局面
中東危機を招く米国の艦砲外交
この3ヵ月間、地中海のレバノン沖に、米国は駆逐艦・コールなどの艦隊を常駐させている。時を同じくして、親米派が武装して反米勢力を駆逐しようとし、5月中旬には内戦の危機を招いた。
しかし、米国の反対を押し切ってアラブ連盟が仲介イニシアティブを取り、政治解決が成立した(5月21日、「ドーハ会談」)。対立している親米派勢力(ハリーリ元首相の暗殺日を運動名にした「2・14運動」や親イスラエルのキリスト教右翼民兵組織など)と「レバノン抵抗戦線」(神の党などのレバノン民族主義諸派)を中心に政治的な対立構図は変わらないが、少なくとも危機が解決方向に向かった。
その合意内容(@空席の大領の即刻選出、A新選挙法=民族派の議会拒否権の成立)は、米国が策動している方向とは真逆のものだが、結論が出るとブッシュ政権は慌てて評価し、体裁をとりつくろった。米国の中東政策の失敗と後退が一層明らかになっている。
それでも米国の艦隊は居座り続けるという古めかしい艦砲外交展開は、ますます米国の中東政策の野望を浮き彫りにしてしまっている。
米国は何故そうするのか。
今回のレバノン危機の始まりは、一昨年、国境地帯のイスラエル・パトロール部隊が神の党の捕虜にされ、イスラエル軍がレバノン侵攻して戦争がレバノン全土に拡大した頃からだ。ブッシュ政権とEU諸国は、その侵略戦争を「反テロ戦争」として全面支持した。しかし、神の党を中心とした「レバノン抵抗戦線」軍が見事に世界最強の軍事力を誇るイスラエル軍を撃退し、「勝利宣言」を行う結果になった。
それまで、レバノンでは親米派シニョーラ政権の増税と高物価政策で市民生活が破産状態に陥り、反政府の民主化運動に勢いがつき、抗議を叫ぶ神の党らの勢力がデモで首相府を包囲し、そのまま先月末までキャンプを張って座り込みを続けていた。
イスラエルのオルメルト政権は、史上初めての軍事敗北の責任を問われて瓦解状態に陥り、首相本人の賄賂事件で、死に体になってしまっている。その腹いせに、昨年はイスラエル空軍がシリアの「核開発施設」空爆したり、今年に入っても、神の党の軍事責任者を暗殺したりという挑発を繰り返している。シリアはその暴挙を無視したが、神の党は「報復攻撃の権利」を主張し、怯えたイスラエルの一方的なヒステリーに呼応した米海軍艦隊の出動となった。
つまり、米国―イスラエル同盟は、この政治的軍事的な後退局面への危機感をこれまで以上に強めて行動している。レバノン内の親米勢力を露骨に全面支援して「神の党の軍事存在がイスラエルの侵略を呼んでいる」(セニョーラ首相声明)とまで発言させた。それは、イスラエルがレバノンの一部を未だに占領し続け、侵略攻撃を繰り返すという、中東緊張の原因を問わないものだ。まさにブッシュ政権の「反テロ戦争キャンペーン」の鸚鵡写しで、反イスラエル占領闘争を国是とするレバノンは、一気に政治的な緊張を高めてしまった。
つまり、イラク占領が膠着長期化し、パレスチナ問題を行き詰まらせている米国は、中東での全面的な後退局面を打開する意図で、イラクに次ぐ「中東焼け野原化」をレバノンで開始しようとしているのである。